MLBドラフト指名・西田陸浮(22)が語る 東北高で出場かなわなかった甲子園と、渡米後の軌跡
小柄な体格でも 自信があるのは「考え方」
高校を卒業し、渡米後も結果を出し続けた。マウントフッド大では2年連続盗塁王。オレゴン大でも63試合のすべてでスタメン出場し、強豪がひしめくパシフィック12カンファレンスでのリーグ優勝に母校を導いた。昨年夏にはメジャーのドラフト指名候補の集まる招待制のサマーリーグ、ケープコッドリーグに出場して爪痕を残した。 西田のプレーを見ていると、その小気味いい攻守に目を奪われる。一定以上のスキル、身体能力を備えているのは間違いないが、メンタルがしっかりしているからこそそれらが生きてくる。西田本人も、最も自信がある部分として気持ちの持っていき方を挙げている。 「体は一番小さいほうですし、技術はまあ多少はあると思うんですけど、それよりも考え方がうまいですかね。野球って結構、考えることが多いスポーツ。自分は失敗したあとでも同じメンタルのまま、試合を進めることができます。バッティングも守備もタイミングが大事なんですけど、そのタイミングを合わせるのは考え方とか、気持ちの部分が大きいと思っています」 しっかりとした考え方を持つ若手有望株が、アメリカでプロとしてどんなキャリアを築いていくかが楽しみだ。ピッチクロック(投球間の時間制限)が導入されたMLBは新時代を迎えている。今季前半戦で盗塁を試みる率、成功率が急上昇したリーグで、西田のようなスピードスターは需要があるはずだ。
経営者とMLB選手の「変則二刀流」に挑む
胸に抱く“経営者としての夢”も小休止していない。建築関係の会社を経営する父に影響を受けた西田。ドラフト前後、日本滞在中に早くも自分の会社を立ち上げる準備も整えたという。事業内容の一つとして、アメリカへの野球留学を志す青年たちのサポートを掲げる。 「これまでの自分には強みがなかったですけど、英語を知らない状態からアメリカに行って、3年間でドラフトにかかる経験ができました。高校まで日本で野球をやって、アメリカで2年制、4年制の大学に行って、ドラフト指名っていう人は今までにいないですよね。だからいろんな視点からサポートもできる。大学編入の手続きも自分で調べてやったんですよ。要領は全部分かるし、今では大学の監督、コーチも自分のことを知ってくださっています。そういった準備があれば、アメリカでの大学野球も結構な確率で成功できると思う。それらをサポートするのを事業の一つにしたいと思っています」 アメリカで野球選手と経営者の二足のワラジを履いて──。ここから大きな出発となるが、ビジネスを軌道に乗せるためにもまずはベースボールでのキャリアが大事になってくるのだろう。この“変則二刀流”を成功させるためには、れっきとしたメジャーリーガーの肩書があるに越したことはないからだ。 西田がスタートさせる会社名は「ワンハネ」。渡米以降、打率1割台の選手のことを“ワンハネ(.100)”と呼んだという。 「野球界全体の歴史を見たときに、大谷翔平さんが大きな影響を与えていますよね。大谷さんを目指して少年野球をする子どもが増え、100%のうちの30%は大谷さんが目標なのかもしれません。あとは先人たちが築いてきたものが、20%、30%だったりするんでしょうか。そうやって内訳を見たときに、野球界のごく一部であっても“西田陸浮が作った”っていわれるようになりたいと思ったんです」 ユニークで型破り、同時にスケールの大きさも感じさせる青年の行く手には明るい未来が広がっている。もちろん常に順風満帆ではないだろうし、世界最高峰のステージでサイズ、パワーなどの面で厳しさを思い知らされる時期もあるかもしれない。ただ、スピード、頭の良さといった自身の長所をしっかりと認識している西田は、その中でも活路を見いだし続けるのではないか。 西田が今後、どんな景色を見せてくれるか。どういったベースボールキャリアを築き、そしてどのような人生を過ごすか。旅路は始まったばかりだ。