「食べることと農業はつながっている」 キュウリ農家に転身、見つけた答え
「畑によって全然環境が違う」
――農業を始めるにあたって、どんな準備をしたのでしょうか。 就農者向けのイベントに行って山梨県のブースで相談して、いろいろな助成金の仕組みを知り、夫は農林大学校(専門学校山梨県立農林大学校)に通いました。地域の農家さんに実地で教わって基本を身につけることもできました。土地を確保するときは、研修先の農家さんがあちこちに声をかけてくださったり、JA南アルプス市が行政と話して探してくださったりして、運良く見つかりました。農業をリタイアするタイミングの方で、機械も譲ってもらえたので、すごく助かりました。 今は、ビニールハウスでキュウリを作っている畑が13アールで、ほかに借りているハウスが8アール。そのほかに露地栽培のトウモロコシ畑が40アールぐらいあります。高齢で規模を縮小される方から、少しずつ引き受けています。 ――実際に始めてみて、想像していたことと違いはありましたか。 ITの仕事はどのパソコンで作業しても同じ結果が出るけれど、農業は畑によって全然環境が違います。天候や日の当たり方も違うし、地下水脈の通り方でも畑の土質が変わってくるし、土壌が火山灰か、川から堆積(たいせき)した土かでも全然違います。これが自然と付き合っていくことなのかと初めて知りました。 最初は会社勤めの感覚が抜けなくて、朝8時から夕方6時までが定時で、ちょっと残業するか、みたいに考えていたんですけど、暗くなったら作業はできないし、日中も6月になると暑くて作業できません。ビニールハウスは温度と湿度の管理が大切で、キュウリが日焼けをするので遮光カーテンをつけています。一方、露地栽培は水のコントロールが難しいし、風の影響も受けます。虫も多いし、アライグマやタヌキ、カラスも来ます。 ――キュウリを選んだのはなぜですか。 祖父母はフルーツを育てていましたが、果樹だと、木を植えてから実がとれるまでに最低3年はかかるし、一回失敗すると果樹を植え替えてやり直すのが大変です。子どもが3歳と1歳で、最初は生活レベルが下がったとしてもしっかり追いつけるように、と考えました。キュウリは株を植えて2カ月後には実るし、毎日収穫できてリカバリーしやすく、ひとつの株にだいたい100本ぐらい実をつけます。うちは800株植えていて、毎日2千本から3千本のキュウリを収穫しています。