コミック・文芸好調 講談社の今後の戦略
アニメ・ゲーム事業のグローバル展開
この何年か、売り上げも陣容も、そして認知度も高まっているのがライツ部門だ。特に日本のマンガ・アニメは世界的に市場が拡大し、講談社でもライツ・メディアビジネス局の存在感が増している。 同局アニメ・ゲーム事業部の古川慎部長に話を聞いた。 アニメ・ゲーム事業部は2021年2月に新設された部署だが、名称からもわかるようにゲーム事業も行っており、従来の出版社の枠を超えたビジネス展開をしている。古川部長も、海外の様々な企業とオンラインはもちろん対面での交渉や打ち合わせがあるため、世界中を飛び回っているという。海外への版権ビジネスは現在、紙の本、配信など様々な形で展開されているが、特にマンガの場合、アニメ化によって映像のコンテンツを作ることがライツ展開の要となるようだ。しかも日本のアニメーションは世界中で評価されており、ビジネス規模はさらに拡大しているという。 「今はユーザーのタッチポイントが変わってきていて、特に若い人たちがキャラクターに触れる最初のタッチポイントが、本や雑誌ではなく映像になりつつあり、海外では特にその傾向が強いように感じています。そして、アニメに加えてゲームもユーザーの入り口としての存在感を増しています。例えば『七つの大罪 光と闇の交戦(グランドクロス)』というゲームは世界で3000万ダウンロードを超えています。ゲームは当たると幅広いユーザーに届き、売り上げも大きくなるのですが、一方でアニメ以上にヒットさせるのが難しいと感じます。 『七つの大罪』はキャラクターがたくさんいますし、それぞれのキャラごとに必殺技があったりとか、色々なキャラが入り混じって群像劇みたいになっているので、ゲームとの相性が良かったんだと思います。加えて、原作サイドの協力もあり、漫画やアニメに出てこないゲームオリジナルキャラやシナリオが実装されています。それがゲームの魅力をさらに高めていると推察します。 今年ついにアニメとしての大団円を迎えた『進撃の巨人』は講談社にとって最大のヒット作品の一つですが、海外市場では社名や雑誌名ではなく作品の名前が名刺代わりになっていると感じます。『進撃』はその代表ですが、『AKIRA』や『攻殻機動隊』のような作品も、講談社の名前は知らなくても、タイトルを出すと我々が何者か分かってもらえる作品です。今後は『Kodansha』というブランドをファンに浸透させることも意識して展開していきたいと考えています」(古川部長) 人気マンガは連載が始まるとすぐに映像化の企画が持ち込まれるというが、今は出版社の側もオファーが訪れるのを待つのでなく、積極的に営業もかけているという。 「アニメ制作会社もゲーム開発会社もクリエイター集団なので、我々と外のパートナーとの関係は、編集者と作家の関係に近いと思っています。編集者が作家に声をかけるのと同じように、我々も開発会社や制作会社、メーカーのプロデューサーにその人の趣味趣向を加味した上で連絡をとって営業を行っています。 アニメ化と比較するとゲーム化は決定までに時間がかかる印象です。昨今のゲームはアニメ以上に開発費がかかることが多く回収がユーザーからの課金ほぼ一発なので、ハイリスク(ただし、ヒットするとアニメよりもハイリターン)であることがその理由の一つなのかもしれません」(同) 日本のアニメ人気が保たれている要因のひとつはクオリティが高いことで、人気の制作会社はもう数年先まで仕事が入っていると言われる。ただ、古川さんによると、最近は海外勢の追い上げも強力だという。 「アニメ制作では、アジアの成長が目覚ましいですし、フランスを筆頭にヨーロッパでは国が助成金を出してクリエイターを保護している地域もあります。 ゲームは、特に中国と韓国に勢いを感じます。私自身は日本のアニメーションやゲームが大好きで、日本のアニメ制作会社とゲーム開発会社を今後も大切にしていきたいと考えていますが、一方で海外のクリエイターと講談社の原作で新たなアニメやゲームを作る試みにも挑戦していきたいと思います。 また、海外のユーザーに目を向けても、その国ごとに好みが異なります。例えば、『東京卍リベンジャーズ』がイタリアで人気がある一方で『七つの大罪』は中南米で強く支持されていたり、よく考えれば当たり前の話ですが、「海外」と一括りにはできない各地域ごとの特色があります。今後は日本と同様に各国ごとに書籍・映像・商品化を連動させていくことが重要だと感じています」(同) 日本で放送されるアニメは、ほぼ同時に世界中で配信される。海外展開では字幕なども事前に準備して同時配信するのだが、これが1日でも遅れると海賊版が横行するという。アニメが世界市場を相手にグローバルなビジネスを展開するのに伴って、それを支える仕組み作りや運営も大変になるが、ビジネス規模の拡大は大きなチャンスを生み出しており、日本のテレビ局も最近はアニメ事業に大きな取り組みを見せている。 アニメ・ゲーム事業部の領域も拡大しており、出版経験者だけでなく様々な人材を中途採用で確保しているという。ちなみに古川さん自身も中途採用で入社した人だ。