年間売上は「社員1人の年収くらい」父の会社はどん底だった… 経営を引き継ぎ、建て直した元シャープ社員「ダメな社員を見限ったらダメ」
◆「商売人」から「経営者」へ
――そんな経営状態から脱却するまで、どんな転機があったのでしょうか? いよいよ首が回らなくなってきた1998年、神田昌典さんの本『小予算で優良顧客をつかむ方法』(ダイヤモンド社)に出合いました。 この本で初めて「マーケティング」という概念を知り、実行してみました。 たとえば、ファックスでDM(ダイレクトメール)を送る際、どんな文章なら反応はいいか。 工夫を続けているうちに少しずつ手応えが見えてきました。 さらに、2000年頃からインターネットが普及しはじめ、独学でホームページを作ってみました。 これが成功し、ホームページを見た人から問い合わせが増えました。 直接行って売り込みをしていたのが、「待ち」の営業もできるようになったのです。 また、大きな転機となったのは、2003年に中小企業家同友会に入ったことです。 さまざまな業種の経営者に出会い、たくさん勉強させてもらいました。 そのひとつが、「人材育成」です。 それまでの私は、「この社員はダメだ」と判断したら、見限っていました。 自分を「経営者」でなく「商売人」だと思っていたんです。 商売人にとって人は「使うもの」ですが、経営者にとって人は「育てるもの」だと理解しました。 こうした地道な努力の積み重ねで、借金も返済が進み、利益が出るようになったのが2015年ごろのことです。 今では、ホームページを窓口に年間1000社ほどの顧客と取引をするまでになりました。 年間売上高も「社員1人分」だったのが、1億5千万円(2024年3月期)を超えるようになりました。 ――正式に会社を承継した時期ときっかけについて教えてください。 家業に戻ったのが25歳、正式に社長に就任したのは41歳、1992年でした。 父の大学時代の友達が会社の税理士をしていたのですが、だいぶ年をとったので引退することになり、父も一緒に引退しました。 承継するのは少し早すぎたかなとも思うのですが、父はそれからきっぱりと会社には来なくなり、肩の荷を下ろしたようで、家で母とふたりで気楽な生活を送るようになりました。
■プロフィール
セントウェル印刷株式会社 代表取締役会長 中井 利夫 氏 1951年生まれ。大学卒業後、シャープ株式会社に勤務、営業担当として力を発揮する。のち、曽祖父が創業し父が再興した株式会社中井商会(1981年にセントウェル印刷株式会社に名称変更)に入社。父・弟とともに経営に携わる。同業他社に先駆けたホームページの運用など新しい手法を取り入れつつ、デザインから提案できる印刷会社として幅広い業種の顧客を開拓。1992年41歳の時に父から事業承継し代表取締役社⾧就任。現在は弟・三夫氏に社長を譲り、代表取締役会長。