過労精神障害の労災認定はたった2割台!「退職強要」「ハラスメント」…元裁判官が教える「雇用先から心身を殺されない方法」
1万件超の事案を手がけた元裁判官・瀬木比呂志さんの『我が身を守る法律知識』が話題だ。相続、交通事故、離婚、不動産トラブル──「人生の地雷」といえるあらゆる法的トラブルの予防法を、豊富な裁判経験を元にわかりやすく教えてくれる。 【写真】なんと現代日本人の「法リテラシー」は江戸時代の庶民よりも低かった? なかでも、雇用問題は深刻だ。日本の雇用制度は「日本の制度のうち最も問題の大きいものの一つ」だと瀬木さんはいう。 過労による精神障害、過労死、解雇、ハラスメント…瀬木さんが手がけてきた裁判でも、雇用紛争は「これはひどい」と思うことが多かったそうだ。 雇用先から心身を殺されないための方法を、瀬木さんが親身に教えてくれる。 【本記事は『我が身を守る法律知識』の「第7章 雇用、投資、保証――経済取引関連紛争」の一部を抜粋・編集したものです。】
過労死の労災請求が認められるためには?
労働災害については、労災保険による給付を受けられますが、その要件としては、「業務遂行性」と「業務起因性」が必要です。そして、前者については、参加が事実上強制されている会社行事等を含め広く認められています。 しかし、後者については、いわゆる過労死、また過労による精神障害やこれを原因とする自殺(過労自殺)の場合が問題になりやすいのです。 まず、脳血管・心臓疾患を原因とする死亡(過労死)については、業務との因果関係を肯定するために、(1)発症直前の異常な出来事、(2)短期間の過重業務、(3)長期間の過重業務のいずれかが認められる必要があります。 (1)については、大きな精神的負荷、身体的負荷を強いられるような異常な事態があったこと、(2)については、発症前おおむね1週間以内に特別に過重な業務に従事していたこと、(3)については、発症前1か月間におおむね100時間または発症前2か月ないし6か月間におおむね月80時間を超える、いわゆる「過労死ライン」の時間外労働に従事していたこと、が基本です。 (2)、(3)では、これに、勤務形態(不規則、長時間、深夜等)、作業環境、精神的緊張といった労働時間以外の負荷要因をも加味して総合的に判断されます((2)の場合、こうした負荷が重いことが必要です)。なお、残業代不払の場合と同様、労働時間が明確でなければ立証の必要が出てきます。