過労精神障害の労災認定はたった2割台!「退職強要」「ハラスメント」…元裁判官が教える「雇用先から心身を殺されない方法」
過労精神障害の労災認定はたった2割台
うつ病等の精神障害、あるいはこれによる過労自殺については、やはり因果関係が問題になります。 (1)認定基準の対象である精神障害を発症したこと、(2)精神障害の発症前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷があったこと、(3)精神障害が業務以外の心理的負荷および労働者自身の要因、事情により生じたとは認められないこと、の3要件を満たす必要があるとされています。 (2)は、業務中に自己が重大事故にあいあるいは他人を重大事故にあわせた、重大なミスをした、退職を強要された、重大なハラスメントにあった、極度の長時間労働を余儀なくされた、などの事柄による強い心理的負荷をさします。 以上のいずれもかなり厳しい基準であるため、請求が容れられる(支給決定がなされる)割合は、過労自殺が4割台、過労死が3割台、過労精神障害が2割台(2021年度)と、高くありません。最終的に行政訴訟になった場合には、より柔軟な判断がなされることもありえますが、やはり、厳しい戦いになります。 私がこの種訴訟を経験したのはかなり昔のことですが、そのころに請求が容れられずに訴訟になってくる事案は、大半が、「これはひどい」と感じられるようなものでした。つまり、行政における判断では、そうした例でも支給決定がなされていなかったということです。
私自身の経験から伝えたいこと
過労死や過労精神障害・自殺による請求がなされるような例では、被用者は、まじめで責任感の強いタイプが多いのです。そういう人は、長時間労働でも途中で適当に気を抜くことができず、自分だけで苦労を抱え込み、自分がやるしかないと悲壮な覚悟をし、さらに、「ここで倒れたら自分はおしまいだ」とみずからを追い詰めてゆくことになりやすい。 そうならないためには、「そうした自分から距離を取ってクールに状況を見詰めること」と「倒れる前に手を挙げる心構え」が必要だと思います。 若いころ、ある先輩が、「裁判官なんて、代わりはいくらでもいるんだよ。最高裁判事だろうと、難件を抱えた裁判長だろうと、死んだらすぐ代わりが来るのさ。ただ、ほんのちょっとの間波が立つだけのことなんだよ」と言うのを聞いたことがあります。そして、今になってみると、あれは真理だったと思います。 代替性のない仕事などほとんどありませんが、あなたという人間については代替性はありません。 動物の一種として人間も「サバイバル」あってこそなのですから、「もうだめだ」と感じたらすみやかに医師にかかり、診断書を書いてもらって見切りをつけましょう。まずは、その時点で、肉体か精神に異変が出始めています。 私自身もそうした経験があるからいうことですが、実際には、そこで見切りをつけさえすれば、回復と再挑戦は難しくないのです。 まずは、自分と家族を大切にしてください。なお、自分の職場の休職制度についても、あらかじめ調べておくとよいと思います。 また、労働災害については、労災保険とは別に、使用者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることも可能です。労災保険ではまかなわれなかった損害や労災保険の対象にならない災害について、訴えを起こすことが考えられます。