過労精神障害の労災認定はたった2割台!「退職強要」「ハラスメント」…元裁判官が教える「雇用先から心身を殺されない方法」
ハラスメントはどうやって立証する?
性的な言動によるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産に関するマタニティーハラスメント、職務上の地位の優位性を利用したパワーハラスメントについては、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、労働施策総合推進法やこれらに基づく指針によって、事業主に、その防止措置や対応する体制の整備が義務付けられています。 そのような規制もあるので、被害にあった場合には、企業の窓口、人事部等に相談すればよいといわれます。 もちろん、それで解決できればいいのですが、実際には、「日本社会のムラ的体質」により、きちんとした対処をしてくれなかったり、かえっていやな思いをさせられたりする場合もままあるのではないかと思います。 ある外国の日本研究者が、「日本に滞在し、その裏面について確信できたことが一つある。それは、隠れたハラスメントが非常に多いことだ」と言っていましたが、研究者があえてそういう話を持ち出すほど目立つということでしょう。 外部では、都道府県労働局の総合労働相談コーナー等に、その先は弁護士に相談ということになります。 ハラスメントに関する訴訟の多くは、被害者が、退職後に不法行為損害賠償請求を行うケースです。場合によっては、加害者のほか使用者の責任も問われえます。 ことに、セクシュアルハラスメントについては、言い分の食い違いから訴訟にまで発展する例が多いようです。これは、行った者にその自覚の乏しい場合があることや、長い経過の中で被害者のほうにも断片的に相手に対する好意を示す言動があったりする(そのようにも解釈できる手紙やメールなどの証拠が残っている)ことによるのでしょう。 しかし、後者については、離婚訴訟の場合と同じく、個々の行為の意味はあくまで全体の経過の中で評価すべきであり、これがあるからといって安易にハラスメントの成立を否定すべきではないでしょう。 ハラスメントについては、悪質な行為である反面、立証はそれほど容易ではないので、その経過を具体的に記録しておくことや証拠になるようなもの(たとえばメールなど)があればそれらを保存しておくことが重要です。 また、これについては、小型の録音機等を用いた無断録音も、証拠収集の手段として許されると思います。ただし、録音のためにあえて挑発したりするのは、やめたほうがいいでしょう。 元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」「なぜ、日本の政治と制度は、こんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は、長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。
瀬木 比呂志(明治大学教授・元裁判官)