Apple Watchの睡眠トラッカーに表示される「コア睡眠」とは?
「コア睡眠」のほかの意味
私としては、Appleが「コア睡眠」以外の用語を選んでくれたらよかったのにと思っています。 というのも、「コア睡眠」という用語はほかにもいろいろな使われ方をされているからで、たとえば睡眠段階をまったく指していない、または睡眠段階と関係していても「深い睡眠」の段階を指す言葉として使われています。 1980年代、睡眠科学者のJames Horne氏は、最初の数回の睡眠サイクル(一晩のうち最初の5時間程度)が、人間が機能するために必要な「コア」睡眠だと提唱しています。それ以外の時間は「オプション」の睡眠であり、理想的には毎晩取れたらいいですが、たまに逃しても大した問題ではありません。 同氏はこのことを1988年に出版した『Why We Sleep 』(2017年に出版された別の著者による本とは無関係)で述べています。このトピックに関する同氏のそれ以前の論文はこちらで参照可能です。同氏はその論文で「義務的」睡眠と「通性的」睡眠という用語を使っており、後に「コア」・「オプショナル」という用語に切り替えています。 また、「コア睡眠」という用語は、軽い睡眠以外を指す言葉としても使われています。たとえば、年齢とともに睡眠がどのように変化するかに関するこの論文では、睡眠段階の観点から得られた知見を、Horn氏の定義するコア睡眠と比較しています。その場合、コア睡眠は主にN3-N4段階(つまり上記のN3)から構成されるとしています。 そこから、どういうわけかインターネット上では、N3とレムが「コア」睡眠と考えられているという考えが広まってしまいました。どうしてそうなったのか私にはわかりませんし、科学文献を検索しても出てきません。 最後に、これも矛盾する定義ですが、「コア睡眠」という用語は、多相性睡眠をする人にも使われています。 これは、一晩の睡眠を日中の数回の昼寝で置き換えることができるという考え方で、バイオハッカーが実現させようとし続けていますが、うまくいったためしがありません。日中の昼寝よりも長い睡眠を夜間に取るなら、それが「コア睡眠」だという主張です。私としては、この場合の「コア睡眠」という用語の使い方は正しいと思うので、許容できます。 説明をまとめると、コア睡眠とは、昼寝をする人にとっては、1日のうちでもっとも長い時間の睡眠を意味します。睡眠不足を研究する科学者にとってのコア睡眠は、一晩の睡眠のもっとも重要な部分を指します。 しかし、Appleの睡眠アプリで表示される「コア睡眠」はN1-N2段階、つまり軽い眠りを意味しているのです。 Source: Apple, NCBI(1, 2, 3 )sciencedirect
春野ユリ