「ほんとうのこと」が知りたいという欲求は止められない。上坂あゆ美が“真実を求める変態”である理由
第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(以下『老モテ』)がSNSを中心に大きな話題を呼んだ、上坂あゆ美さん。先日発売された『地球と書いて〈ほし〉って読むな』は、パンチの効いた家族に翻弄され、自身も無自覚に周囲の人々を傷つける「シザーハンズ」(編集部注:ティム・バートン監督の映画『シザーハンズ』の主人公として知られる、両手がハサミの人造人間)として幾多の失敗を繰り返しながらなんとか生き延びた、上坂さん自身の半生を赤裸々に綴った初のエッセイ集。 【画像】「どうしても止められない欲求」について話す上坂あゆ美さん。 歌人という枠にとどまらず、怒りと笑いと言葉を武器にハードな世の中に立ち向かう、上坂さんにとっての「書くこと」、飽くことなく希求する「真実」とは――?
言葉以外は信じられない「シザーハンズ」
――上坂さんは「父への怒りを短歌にすることで浄化することができた」と仰っていましたが、短歌と出会うまでは、自分の中にあった怒りを浄化する方法はなかった? あんまりなかったですね。短歌に出会うまではずっとこじらせていました。自分の中にあるものを外に表現したい気持ちはあったけど、具体的になにを表現したいのか見えていないし、その手段もわからない。美術大学に進学して、美術・デザイン・映像・彫刻など、授業でいろいろやりましたが、自分が言いたいことを伝えるには遠い気がして、いろんなことをやっては諦めていました。 ――美術やデザインでは、なぜだめだったのでしょうか? むしろ美術やデザインの方が自分のメッセージ性を出しやすいという方もいると思うんですが、私の場合、もともと言語野の方が強かったんでしょうね。当時から言葉にしないとちゃんと言えていない感がすごくありました。 ――やっぱり、言葉の方が自分の言いたいことをダイレクトに伝えられる? それもあるし、空気を読むとか、人の顔色や心情を察するのが苦手で、言葉にされないとわからないんですよ。そういうところが「シザーハンズ」と言われたのかもしれないですけど。たとえグサッときても言葉で本当のことを言ってほしいし、自分も言いたい。今回の『地球と書いて〈ほし〉って読むな』というタイトルもまさにそうなんですが、抽象めいたものやある種のロマンチシズムが苦手だと思います。 ただ、感覚的なものを否定したいわけではないんです。そういうのを楽しめたらいいなって憧れはあるんだけど、私の場合、それを受容できる感覚機能がないので、言葉以外は信じられないし、言葉で闘うしか手段がないですね。