野良猫の殺処分なくせ 効果的な「TNR」米で科学的検証 獣医師招き大阪で12月に会合
野良猫を捕まえ(Trap)、不妊・去勢手術をし(Neuter)元の場所に戻す(Return)「TNR」活動。過剰繁殖に起因する多頭飼育崩壊などが社会問題となる中、いかに殺処分を少なくし、共生するかという動物の福祉の観点から研究や啓発活動が進められている。米国の研究では、定期的に高密度でTNRを実施すると猫の出生率と死亡率を大きく下げ、個体群の規模を縮小させる効果が確認されている。 野良猫を地域住民らが見守る「地域猫活動」は、わが国では平成2年ごろから各地で行われていたとされ、22年に環境省が「地域猫」の適正飼養ガイドラインを公表したことでその理念が広まった。 殺処分ゼロを目指して公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)が17年から行っている飼い主のいない猫への無料不妊手術は、昨年度末までに33万匹超に実施。同基金が設立された昭和63年度は約30万匹の猫が殺処分されていたが、令和4年度は9472匹まで減少している。 とはいえ、殺処分された猫の約62%は離乳前の子猫で、防ぎ得る死をいかになくし、地域社会の「野良猫問題」をどう解決するかは依然課題だ。各地の活動の多くはボランティアが主体で、人手・資金不足を善意で補っている現状の改善は急務となっている。 こうした中、獣医師として初めて米フロリダ大のジュリー・K・レヴィー教授らが効果的なTNR方法を科学的に検証した。精巧なシミュレーションソフトを用い、10年間の野良猫の管理について①何もしない②半年ごとに25%除去(行政職員による保護など)③同50%除去④苦情があったときだけ25%除去⑤同50%除去⑥半年ごとに25%TNR⑦同75%TNR-の7つの方法で比較検証した。 その結果、②~⑦のいずれも①よりは子猫の死亡数と成猫の殺処分数が少なく、密度が低い除去やTNRよりも高密度の方が減少効果があった。繁殖抑制に最も効果が高かったのは⑦で、①に比べて子猫の出生率と死亡率を97%下げられ、個体群の規模縮小につながることが判明した。 犬猫の過剰繁殖問題に立ち向かおうと、2年前に大阪の獣医師らが立ち上げた一般社団法人「Spay Vets Japan(スペイ・ベッツ・ジャパン)」(大阪府八尾市)は、海外の先行研究などにも学びながら啓発活動を展開。12月1日には、犬猫の福祉向上の観点から繁殖管理について考えるカンファレンスを大阪公立大りんくうキャンパス(大阪府泉佐野市)で開催する。