エンジニアにとっての「リスキリング」とは何か?
エンジニアにお薦めのリスキリング
1 相手と信頼関係を築くコミュニケーション能力 以前、あるIT業界の方と仕事をしたときのことです。その方は、デジタルに関する知識や経験が非常に豊富でした。しかし、上から目線の言動が多く「こんなことも知らないの?」とマウントをとったり、自分と異なる意見をしつこく攻撃したりと、コミュニケーション能力に問題がありました。 どんなにスキルが高い人でも、「こういう方とは、一緒に仕事をしたくないな」と思いました。こういったケースって、本当によくあると思うんですよね。 この方には「相手の意見に耳を傾ける」「相手の困りごとを想像する」など、コミュニケーション能力のリスキリングが必要だと感じました。 2 本質的な問題を見える化し、理想を言語化する能力 業務を本質から変えていくためには、「そもそも、これは何のために必要なのか?」といった本質を考え、問題を見える化したり、「これからはこんな形にしていきたい!」のように、関係者の意識を1つに集められるように理想を言語化したりする必要があります。 どうすれば本質的な問題を見える化し、理想を言語化する能力を身に付けられるのでしょうか? 本質的な問題を言語化するためには、「そもそも、何のために」を考えることが有効な手段の一つです。そこでエンジニアの皆さんにお勧めしたいのが、オブジェクト指向プログラミングでいう「抽象化」です。 抽象化とは、複雑な業務やシステムをシンプルに捉えて簡潔化し、大切な情報に焦点を当てることです。プログラミングに加えて、日常の業務や社会の事象に対しても抽象化するクセを身に付けると、物事に対する視座が高くなり、問題の本質を見つけやすくなります。 抽象化するためには、「これはつまり……」「一言で言うと……」「大切なのは……」「で?」といった枕ことばを付けて一言で表現してみると、考えやすくなるでしょう。 3 分かりづらいことをモデル化し、再現する能力 以前、中堅やベテラン世代のキャリアを支援している方から、次のような話を聞きました。 「長く活躍できる人には、分かりづらいことをモデル化し、誰もが理解、再現できるようにする能力がある」 この意見には私も同意です。 この能力は、エンジニアの皆さんだったら日常の業務の中でも発揮しているのではないでしょうか。分かりづらいことを分かりやすくするように「図式化する」「モデル化する」「シンプルにする」「フローチャートにする」といったことを繰り返すことで、自然と身に付くと思います。 加えて、横文字の専門用語をできるだけ使わずに説明することも、分かりやすく説明する能力を身に付けるいい方法だと思います。もし、意識することがあるとしたら「10歳でも分かる」くらいの分かりやすさにチャレンジしてみるといいでしょう。 4 さまざまな意見をまとめるファシリテーション能力 DXのような、「そもそも」の本質的なところから業務を変革する場合、さまざまな利害関係者が関わってくることがあります。関係者が、変革意識があり、ポジティブな方ばかりならいいのですが、中には、どんなに話しても理解してくれない人や、「そんなのやる必要ない」「なぜそんなことをするの?」など、反対の意見をぶつけてくる人もいます。こうした状況の中で意見をまとめるのは本当にしんどく、面倒で、大変です。 ここで必要となるのがファシリテーション能力です。一言で「ファシリテーション能力」といっても幅は広いですが、「普段はあまり言葉にしないけれど、実は、感じているモヤモヤがあれば遠慮せずに教えてください」のように発言を促したり、「なるほど、○○さんは□□という意見なのですね。そういう意見もありますよね」と相手の意見を尊重しながらも、「一方で、大切なのは××ですよね?」のように少しずつリードしたりしていくような関わり方が必要となるでしょう。 5 周囲を巻き込み、取り組みを継続する能力 先日から、「ITのチカラ」という連載を始めました。企業におけるDXがどのような形で進められているのかを取材しています。 DX実践者のお話を伺って、改めて感じます。「DXとは単にツールを入れるだけではなく、継続的な関わりが必要だな」と。 当たり前かもしれませんが、新たな取り組みを定着させるまでには、うまくいかないことも多いもの。それでも粘り強く関係者に「なぜ、それをするのか?」といった目的や意味を伝えたり、周囲が負担に感じない程度のことから少しずつ改善を重ねたりと、地道で、継続的な取り組みが必要なのだと感じます。