植物のストレス耐性遺伝子が、食糧危機の救世主に
高橋 直紀(明治大学 農学部 准教授) 近年、地球温暖化に伴う砂漠化の拡大や集中豪雨などが頻発しています。その影響で、植物の成長が悪くなり、農業は甚大な被害を受けています。一方で、日本の人口は減っているものの、世界的には人口増加が続いており、食糧不足も深刻な問題となっています。それら課題解決の一手として、環境ストレスに強い農作物開発への期待が高まっています。 ◇過酷な環境にも適応できる、植物の特異なメカニズム 植物は、高温や低温、紫外線や乾燥など、さまざまな環境ストレスを受けています。陸上植物は、一度固着した場所から移動できません。そのため、植物はそれぞれ、その場の環境に適応するため、他の生物が持たない特異なメカニズムを持っています。砂漠や高山など過酷な環境においても生育できるのは、適応するための機構を進化の過程で獲得してきたからだと考えられます。植物は、移動ができる動物とは全く違う生存戦略をとっているのです。 例えば氷点下の環境では、植物が吸い上げる水も氷になってしまい、細胞を壊してしまいます。しかしコマクサなど高山で育つ植物は寒さを感じると、細胞の中に適合溶質などの水を凍りにくくする成分を溜め込み、マイナスの気温にも適応します。 また、普通の植物だと塩濃度が高い土壌では、塩を取り込んでしまい細胞の中から水が抜けて死んでしまいます。しかし独特の塩味が特徴のアイスプラントは、取り込んだ塩を排出する器官を持っているため生き延びられるのです。 浮き稲と呼ばれるイネも一例です。陸上植物は長く水没してしまうと呼吸ができずに枯れてしまいます。東南アジアなど雨期に水かさが高くなる地域に植生するこのイネは、水没すると急に成長しはじめ、水上に穂先を出して呼吸を行います。 ほかにも、スイレンは水の上でも育ちますし、アフリカ南西部の砂漠地帯に生育する裸子植物のウェルウィッチア(日本名:奇想天外)は、乾燥しきった環境でも地中深くまで根を伸ばし、ごく微量な水分だけで2000~3000年は生きていられます。 このような植物が持つ力を応用すれば、地球温暖化の進んだ過酷な環境下でも育つ農作物ができるかもしれません。私たちの研究室では、植物がどうやって環境ストレスに適応しているのかを遺伝子レベルで解明しようと努めています。環境ストレスを受けときに機能する遺伝子に着目することで、とくに環境適応に関わる因子を突き止められるはず。それらを改変することで、環境ストレスに強い植物を開発しようと研究を進めています。