「我が子を傷つけずにはいられない」…DV夫の妻への暴力が、子どもたちへの虐待に波及する「DV連鎖」の闇
DVは減ったが…
そんななかで夫のDVはある日を境に減っていった。夫に我慢の限界がやって来た夏希さんが反撃に出たからだ。 夏希さんが子どもを虐待し、それを夫が「それでも母親か!?」といつものように殴り始めたとき、 「アンタだって、私に同じことしてるじゃない!!」 と夏希さんが絶叫しながら、渾身の力で夫をはねのけたという。 「バランスを崩した夫は壁に頭を打ち付けて、そのまま放心状態になってやり返してこなかった。絶対にやり返されると思っていた私は拍子抜けでしたね」 これをきっかけに我に返ることができたのか、哲史さんのDVは減ったものの、夏希さんとの関係が修復されることはなかった。 「『家事さえやっていればいい』みたいな感じです。だから私も必要最低限の会話しかしないし、普段は目も合わせないし、感謝されることもないし、扱いは家政婦以下です」 そんな夫からの扱いを、夏希さんはそっくりそのまま子どもたちに反映させているという。
虐待を続ける理由
「食事を与えて、最低限の身の回りの世話をする以外は無視しています。困っていても泣いていても、助けたりあやしたりしません。まとわりつこうものなら、振り払います。ひどいことをしている自覚はありますが、やさしくしたくても、身体が拒否するのです」 必要としている相手からの愛情を受けられずに関係が歪み続けている哲史さん、夏希さん、そして子どもたち――。 義両親は無自覚に冷遇している次男夫婦と違い、次男夫婦の子どもたちを「都会育ちで生意気な長男の子より、次男の子どもの方が素直で可愛い」と可愛がっているという。 「夫にとって子どもたちは唯一兄を出し抜ける存在。口実を作ってはよく子どもたちを実家に遊びに行かせている」(夏希さん)ため、子どもたちの逃げ道は結果的に確保できているようだが、 「私は、義両親と夫が可愛がっている子どもたちに冷たくすることで、双方へ復讐しているのかもしれません。もう私ひとりではどうにも止められないのです」 取材中、夏希さんは「なんで私ばかりこんな思いをしなければいけないのか」と繰り返した。確かに夏希さんはDVの被害者であるが、同時に加害者でもあり、子どもたちは夏希さん以上の責め苦を受けている。 暴力は時として“捌け口”という形で弱者へと向けられる。ゆえに夫から妻へのDVが、母親から子どもへの虐待に繋がるのだが、その連鎖を止める手立てはないのだろうか。 【つづきを読む】『「母さん、やめて」…交通事故で「他界した父」の身代わりに…15歳だった息子が母から受けた「おぞましい行為」』
清水 芽々(ノンフィクションライター)