アングル:FRB、生産性向上の持続に期待 中長期の金融政策に影響も
Howard Schneider [ワシントン 16日 ロイター] - 今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では予想される25ベーシスポイント(bp)の利下げと政策・経済見通しに注目が集まるが、こうしたFOMCの討議と金融政策の中長期の道筋に影響を及ぼしているのが、最近活発化している労働生産性を巡る議論だ。 米国の時間当たり労働生産性は短期的には変動が激しいが、長期的には安定した傾向があるとみられている。2019年以降は平均で年1.8%上昇と、それに先立つ10年間の1.5%上昇を上回り、最近は上昇ペースがさらに加速している。 こうした小幅な改善でも、時間とともに効果は増幅される。人工知能(AI)の普及に伴う生産性向上も見られており、今後一段の向上が期待できる可能性がある。 労働生産性の向上は、連邦債務の行方からトランプ次期政権の政策まで、あらゆる分野に影響を及ぼし得る。例えば、生産性向上が続けば、移民の取り締まりに伴う労働力不足が解消しやすくなることが考えられる。 <「何かが起きている」> 労働生産性の向上には持続性が見られ、ある生産性モデルでは最近、米経済が低成長環境から抜け出せない確率が約100%から60%未満に急低下した。 元ニューヨーク連銀副総裁のジェームズ・カーン氏は「本物の変化が起きているかどうか判断するのは時期尚早だが、その可能性は確実に高まっているように見える」と指摘。 サンフランシスコ地区連銀のエコノミストだったジョン・ファーナルド氏も「慎重ながらも楽観できる理由がいくつかある」と述べた。 連邦準備理事会(FRB)内では労働生産性が持続的に上昇する可能性が真剣に議論されており、潜在成長率に対するFRBの見方に影響が出る可能性がある。 FRBが推定する潜在成長率は、新型コロナウイルスの流行前、生産性の低迷などを背景に下方修正が続いていた。 ところが、実際の経済成長率はFRBが推測する潜在成長率を上回ることが多く、過去2年はインフレの緩和にもかかわらず、そうした傾向が続いた。 生産性の向上が寄与しているとみられ、最近の傾向が続けば、経済の行方と経済成長に伴う基調インフレの動向について再考を迫られる可能性がある。また、長期的な推定「中立」金利の上方修正につながることも考えられる。 11月6─7日のFOMC議事要旨によると、この点については見直しが進められており、FRBスタッフは潜在成長率の内部予測を上方修正した。FOMCではこうした傾向が今後も続くのかが議論されている。 イノベーションの研究を行っているクックFRB理事は先月、近年の生産性向上は統計的にも経済的にも重要だとし、「何かが起きている」との見方を示した。 <「極めて重要」> クック氏は考えられる複数の原因を挙げている。より効率的な求人のマッチング、新型コロナ流行中に急増した事業設立ペースの継続、生産性向上の持続につながり得るAIへの投資などだ。 シカゴ連銀のグールズビー総裁は今月、こうした状況が続くという見方を真剣に受け止め、政策への影響を整理する必要があると発言。「人手不足を指摘する経営者は機械を導入している。人手が足りないからこそ省力化技術を採用している。現場レベルでは一定の証拠があると思う」と述べた。 生産性は経済の特効薬だ。生産性向上には投資やイノベーションが必要になるため元手はかかるが、これまでより少ない時間とリソースで多くのものを生産できるようになるため、結果的にインフレをあおることなく賃金と利益を押し上げることが可能になる。 賃金の伸びはFRBがインフレを招かないと判断する水準を上回っているが、単位労働コストは生産性向上などを背景に抑制されており、FRBのインフレ目標と整合性の取れる水準に維持されている。 経済成長がトレンドを上回り、失業率が低いにもかかわらず、FRBが利下げ継続に不安を感じていないのは、こうした生産性の向上が一因だ。 目下の問題は生産性向上を維持できるかどうか、またどの程度の期間維持できるかだ。 クーグラーFRB理事は今月、最近の生産性の高さは経済とFRBにとって「極めて重要」だとした上で、世界の関税や通商政策の変更で生産性がリスクにさらされる恐れがあると指摘。 「次期政権・議会がまだいかなる政策も導入していないため、現時点で判断を下すのは時期尚早だ」としながらも、「通商政策は生産性と物価に悪影響を及ぼす可能性があり、具体的な政策が明らかになれば、その検証が重要になる」と述べた。