京アニ放火殺人、事件の背景に見えてきたのは…ロスジェネ世代の「一発逆転の呪い」 雨宮処凛さんインタビュー
36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件は25日に判決を迎える。未曽有の被害を生んだ事件はなぜ引き起こされたのか。青葉真司被告(45)と同じ、バブル経済崩壊後の超就職難時代に社会に出たロスジェネ(ロスト・ジェネレーション)世代の作家・活動家の雨宮処凛さん(48)は、被告の中に強固に巣くう「一発逆転の呪い」に事件の淵源を見るという。青葉被告の判決を前にインタビューに応えた。(共同通信=武田惇志、野澤拓矢) 衝撃の「京アニ」火災 写真特集
▽一発逆転の呪い ―最初に事件の報道に触れたとき、どう感じましたか? 非常に多くの方が亡くなったと知り、ただただ衝撃でした。このような残忍な事件を起こしたのは青葉被告の責任であり、少しも正当化できるものではありません。ただ、少しずつ被告の情報が報道されるにつれて、ロスジェネの中でも本当に条件が悪かった人物像が浮かび上がってきたことも事実です。それもまたショックでした。 ―公判で青葉被告は、秋葉原無差別殺傷事件(2008年6月)の加藤智大元被告に共感したと発言していました。 加藤元被告と同じ種類の鬱屈を感じていたのではないでしょうか。08年前後は青葉被告も住み込み派遣を転々としていて、加藤元被告と同じような状況でした。当時は元被告が掲示板に書き込んだ内容に共感する若者が多くいて、とても複雑な思いをしたんですけど、青葉被告もきっとその中のひとりだったんでしょう。 ―青葉被告は秋葉原事件直後の2009年から、小説を執筆するようになりました。
新型コロナウイルス禍で困窮者支援をする中で、加藤元被告や青葉被告みたいなロスジェネと大量に出会いました。この20年ほど、寮付きの派遣社員として綱渡りのように全国を転々としてきたものの、コロナ禍で工場が止まったり現場がなくなったりして派遣切りに遭い、初めてホームレスになったというケースです。 40代まで非正規でやってきたら、そこから生活を安定させるのは至難のわざです。そういう中で、リアリティーのない「(人生の)一発逆転」という発想が出てきたのかもしれません。それが、青葉被告の場合は「小説家になる」というものでした。これがバブル崩壊からの「失われた30年」の一つの帰結なのかもしれません。地道に努力しても報われないので、トリッキーな方法にすがることでしか人生をやり直せないという呪い。だからこそ、小説を投稿して落選したというのはすごい衝撃だったんだろうなと想像します。 ▽特別感をあおられ…