生後3カ月で重度の難聴とわかった息子。「本当はきこえてるんじゃないか」と現実を受け止めきれず。きこえるための手術への母の葛藤も【体験談】
本当はきこえてるんじゃないか、とわざと物音を立てていた
美砂江さんは検査結果を待つ間にSNSで難聴児の情報を探したり、医師から聞いたろう学校の乳幼児相談を予約するなど、糸優くんをどう育てていけばいいのかを必死で調べました。 「最初に専門医を受診してからすぐに、ろう学校の乳幼児相談を予約し、息子が生後1カ月のころに相談に行きました。『生後1カ月で相談に来るなんて早いですね!』ととても驚かれました。 0~2歳を対象とした乳幼児相談では、ろう学校の先生が、検査のことや検査結果の見方、難聴の種類などの情報を教えてくれました。また、新生児聴覚スクリーニングでリファーになった子や、難聴と診断された子が、同じ月齢の子たちと一緒に遊ぶグループ活動などにも参加しました」(美砂江さん) 糸優くんのためのさまざまな情報を調べながらも、美砂江さんはなかなか糸優くんの聴力のことを受け止めきれない気持ちだったそうです。 「しばらくは、本当はきこえてるんじゃないか、と思っていました。なにか大きい音がして、息子がたまたま反応したりすると『今、動いたよね、やっぱりきこえてるんじゃないかな』って。わざと掃除機をかけてみたり、きこえを確かめるような行動をしていたと思います。 今思うと、あの時期はものすごく不安定な心理状態でした。あるとき区の3カ月健診に行った際、鈴の音が鳴ったほうに振り向くかどうかをみる検査がありました。ほかの子の様子を見て、ドキドキしながら待っていたのですが、息子の番ではその鈴の検査はやりませんでした。事前に問診票に難聴の診断を受けていることを書いたから、おそらく配慮してくれたんだと思います。 でも私は、検査がなかったことがものすごく悲しかったです。帰り道ベビーカーを押しながら1人で泣きました。でも、きっと検査したとしても反応がなくて、それはそれでまた悲しくて泣いたのではないかと思います」(美砂江さん) そして、糸優くんの検査結果がわかったのは、ちょうど生後3カ月を迎えるころでした。 「医師から、重度の感音性難聴の診断が伝えられました。息子は裸耳(らじ)だと両耳とも105dB程度、飛行機のジェット音がきこえるくらいとのこと。医師からできるだけ早く音を入れてあげたほうがいいとすすめられ、生後3カ月から補聴器を装用し始めました。 補聴器をつけても最初のうちはあまり反応がありませんでしたが、しだいに息子が音に反応するようになってきたのがとてもうれしかったです。反応がうれしくて、ついつい大きな音の出るおもちゃを買いがちで、山梨に旅行に行ったときにはお土産屋さんで熊よけの鈴を買ったこともありました(笑)」(美砂江さん)