【毎日書評】「就職氷河期世代」とは何者か?前期と後期で変わる格差・仕事観・マインドセット
前期世代と後期世代の大きな違い
氷河期前期世代の、特に大卒者は、団塊の世代の子供である団塊ジュニア世代と重なっている。 団塊の世代は一般的に1947~49年生まれを指し、その子供の年齢にはばらつきがあるものの、「団塊ジュニア世代」といった場合おおむね1970年代前半生まれを指すことが多い。この世代が大学を卒業した時期が、ちょうど就職氷河期の始まりと重なっているのだ。(11ページより) 団塊ジュニア世代は、好景気のなかで物質的な豊かさを享受しながら育った一方、人口ボリュームの多さもあって、子どものころから苛烈な競争にさらされがちでもあったといえます。印象的なのは、ここで引用されている作家の雨宮処凛氏(1975年生まれ)の記述です。 確かに子どもの頃、「未来は明るい」ことは漠然と信じられていた。経済成長がこのまま続き、その中でいい成績を取り、いい学校、いい大学に行き、いい会社に就職、という神話は唯一絶対と言っていいほどの力を持っていた。そのために、数の多い団塊ジュニア間の受験戦争は過酷さを極めてもいた。(中略)「努力すればしただけ報われる」という言葉には、景気が良かったからこそまだ信憑性があり、しかし、自分たちが社会に出る頃になって、「今までのことはバブル崩壊によって全部嘘になりました」と梯子を外された世代。(雨宮処凛『ロスジェネはこう生きてきた』平凡社新書)(11~12ページより) 一方、新卒労働市場がもっとも冷え込んでいた時期に社会に出たのが氷河期後期世代。 経済ニュースが理解できるような年齢に達したころにはすでに不景気になっていたため、必ずしも「豊かな日本」を実感しながら育ったわけではありません。 18歳人口が減少したため、受験競争は団塊ジュニア世代ほど苛烈ではなかったはず。しかし、逆に経済的困窮から進学をあきらめたり、奨学金の返済にいまも苦しんだりしている割合は、団塊ジュニア世代よりも多いと推察されます。氷河期前期世代が「梯子を外された世代」なら、後期世代は「最初から梯子などなかった世代」だということになるでしょう。 こうしたマインドセットの違いは当然ながら、仕事に対する姿勢、メンタルヘルス、人生観にも影響を与える可能性があります。以後、両者の違いなどがより緻密に考察されていきますが、いずれにしてもまずはこの点を理解しておくことが重要であるかもしれません。(10ページより) 東京大学社会科学研究所教授である著者は、2001年に大学を卒業した氷河期後期世代。まだ中学生だった1991年前後にバブルが崩壊し、高校生になってからもずっと、「なんでこんなに景気が悪いのだろう」と感じていたのだとか。その理由を知りたいと考え続けた結果として経済学部に進学し、やがて現職にたどりついたということです。つまりデータを主体とした本書は、そうした自身の体験をベースとしたものでもあるわけです。 いずれにしても、先行きの見えない時代を生き抜いていくため、本書を参考にしながら就職氷河期世代について改めて考えてみるべきではないでしょうか。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! Source: 中公新書
印南敦史