大量の溶岩を噴き出した「溶岩チューブ」と地球外生命の関係とは、ラ・パルマ島
3カ月間にわたり約2億立方メートルを噴出、新種の細菌がいる可能性も、カナリア諸島
2021年秋、大西洋に位置するカナリア諸島のラ・パルマ島の火山が噴火し、3カ月間にわたって1億9000万立方メートルを超す溶岩を噴き出した。溶岩原の大部分はまだ、科学者と当局者以外は立ち入りが禁じられていて、私(作家のエマ・リラ)はカナリア諸島洞窟学連合の副会長であるオクタビオ・フェルナンデス・ロレンソに同行させてもらっていた。フェルナンデスは、スペインの地質鉱物研究所(IGME)の研究者たちと一緒に、溶岩が流れた後にできたトンネルの探査の責任を負っている。 ギャラリー:地元写真家は見た! ラ・パルマ島、噴火のリアル 写真17点 こうしたトンネルは、「溶岩トンネル」や「溶岩チューブ」という名前で知られているが、この島ではスペイン語で「火のパイプ」を意味する「カニョス・デ・フエゴ」と呼ばれることが多い。 溶岩チューブは、火山活動がある、もしくは過去にあったところなら、たいていの場所で見つかるが、すべての火山でこうした洞窟が形成されるわけではない。噴火が一定期間以上続き、十分な量の溶岩が噴出されること、溶岩が液状に保たれる温度と構成成分であること、そしてさらに、適切なスピードで斜面を下ることが、溶岩チューブのできる条件だ。 溶岩チューブから学ぶことは多く、しかもその内容は地球上のことにとどまらない。セビリア天然資源農業生物学研究所の地質微生物学者であるアナ・セリア・ミラーは、肉眼では見えない小さな生き物の研究をしている。彼女が最初の科学的な発見をしたのは、ラ・パルマ島の溶岩チューブでゼラチン状の洞窟生成物(鉱物の沈殿物)を調べていたときのことだった。 ミラーの研究対象は、成長のために無機物からエネルギーを得る細菌をはじめとする極限環境で生息する微生物だ。欧州宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士訓練コース「パンゲアX」の指導者として起用され、近くのランサローテ島で、宇宙飛行士に微生物の収集と分析の訓練を指導したこともある。その島の溶岩チューブは月や火星のものと環境的に似た点があると考えられているのだ。 2009年に日本の月周回衛星「かぐや」の観測データから、月の溶岩チューブへの入り口の可能性があるマリウス丘の縦穴が発見された。科学者たちはそれ以降、地球上の溶岩チューブと、ほかの天体にある溶岩チューブの類似性を研究してきている。 「火星や月の洞窟は、環境条件や重力という点で地球のものとは大きく異なっているため、大きさや安定性という点で違いがあります。しかし、その成り立ちや周辺環境については、意外にも地球上のものと共通点が多いのです」と、ESAの科学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)であるフランチェスコ・サウロは言う。もし、地球外の溶岩チューブに生命が存在する、もしくは過去に存在したとすれば、それはラ・パルマ島の溶岩チューブに見られるような微生物の可能性があるのだ。 「今回の噴火のおかげで、新しくできた溶岩チューブでどのように微生物叢が出現するのかを知る、またとない機会が得られました」とミラーは言う。この島の溶岩チューブで、ミラーの研究チームは既知の細菌のほか、新種の可能性のある、シュードモナス門とバクテロイデス門の未知の細菌も確認している。
文゠エマ・リラ(作家)