ファジアーノ岡山を昇格PO決勝へ導いたJ1で出番を無くした男達
敵地アルウィンで成就させた痛快無比な下剋上。筋書きのないドラマを演出したのは、出場機会に飢え、はい上がるチャンスをファジアーノ岡山に求めてレンタル(期限付き)移籍をしてきた3人の男たちだった。 4分間が表示された後半アディショナルタイムも、半分近くが経過していた。スコアは1‐1。このまま終われば、規定によりリーグ戦を3位で終えた松本山雅FCに軍配が上がる。 クラブ史上最高の6位に食い込んだ岡山が、初めて挑んだ27日のJ1昇格プレーオフ準決勝の舞台。勝利だけが求められる絶体絶命の状況で、ボランチの矢島慎也は心憎いまでに冷静沈着だった。 「ワンチャンスを狙いにいっていました。相手が前へ出てこられなくなっていたので、事故は起こるかなと思っていましたけど」 敵陣の中央で右サイドからパスを受けて、前を向いても松本のプレッシャーはない。同点ゴールを決めていたボランチのパウリーニョが、慌てて間合いをつめていった直後だった。 左サイドへ体を向けていた矢島は一瞬のタメを作り、体を捻るようにして左足を振り抜く。浮き球のパスの標的は、前方の右側へ走り込んでいたFW豊川雄太だった。 「トヨ(豊川)が走っているのは見えていたので、冷静にパスを出せたなという感じでした」 ジャンプ一番、空中で相手DFと競り合った豊川は、矢島が描いた青写真をいい意味で裏切る。「あそこからトヨが自分で行くのかなと思った」という状況で、ゴール中央へ抜け出そうとしていたFW赤嶺真吾の姿をしっかりととらえていた。 「ああいう状況になっても、(赤嶺)真吾君は僕の動きを見ていてくれるので」 ヘディングでの折り返しは、赤嶺への絶好のスルーパスとなる。ひとつつけ加えれば、矢島がパスを出す前に作った一瞬のタメで考える時間が増えたためか、本来ならば赤嶺をケアすべきDF飯田真輝は豊川の動きに気を取られ、わずかながら反応が遅れていた。 そして、時間にしてコンマ数秒の差が、決定的な場面を招いてしまうのがサッカーの怖さ。フリーでボールを支配下に収めた赤嶺が、日本代表候補にも選出されたGKシュミット・ダニエルの眼前で、利き足とは逆の左足をボールにソフトタッチさせる。 タイミングを狂わされたシュミットは、まったく動けない。はるばる松本まで駆けつけた約1200人のサポーターが大歓声をあげる目の前で決めた、岡山の勝利と決勝進出を告げる奇跡のゴールに赤嶺も言葉を弾ませる。 「トヨが途中から入った時点で、あのスペースを狙っていた。本当にいいボールを落としてくれた」