「日本とロシアどちらが勝ったのか?」日露戦争を知らなかったトランプに見せた、日本政府の“大人の対応”…「もしトラ」に備えた苦渋の二股外交
同じ轍を踏みたくない日本政府
安倍元首相との間で過去の話になったとき、安倍元首相が日本はかつてロシアと戦争をしたと言うと、トランプは日露戦争を知らなかったそうです。その上で「それでどちらが勝ったのか?」と聞き、「日本が勝った」と答えたら「おお、それは良かった」と言ったそうです。このとき、日露戦争も知らないのか、という態度をとっていたら、日米関係は大いに難しいものになっていたでしょう。 一方ドイツのメルケル首相は最後まで関係修復ができませんでした。トランプ大統領はメルケル首相に会ったとたん「見下されている」と感じたそうです。結局ドイツはトランプ政権と友好的な関係にはなりませんでした。 一方、岸田文雄首相はバイデン大統領と良好な関係を築いています。2024年4月には国賓待遇で訪米。バイデンとの親密さをアピール。アメリカ議会でも演説を行いました。 しかし、ここでジレンマに陥っているのが日本の外交です。バイデン大統領との親密さをアピールすると、トランプは面白いはずがありません。「もしトラ」が現実になった場合、トランプが日本に厳しい態度をとる恐れがあります。そこで考えたのが、実質的には日本政府の名代だけれど、建前としては自民党副総裁である麻生太郎がトランプと会談することでした。 2024年4月、ニューヨーク州での裁判が続くため、ニューヨークのトランプタワーに滞在しているトランプを訪ねて会談。安倍元首相の思い出話をしたそうです。きっと「あなたが大統領に返り咲いたらよろしく」と伝えたのでしょう。これぞ典型的な二股外交ですが、もしトラの可能性が高まってきたために余儀なくされた、日本政府の苦渋の決断だったのです。みっともないですが。
---------- 池上彰(いけがみ あきら) 1950年、長野県生まれ。NHKの記者やキャスターを経て、フリーに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『世界史を変えたスパイたち』『第三次世界大戦 日本はこうなる』など。 ----------
池上彰
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