【更年期、有森裕子さんの場合/インタビュー前編】イライラやホットフラッシュに一人で苦しんでいた
40歳で現役ランナーを引退して17年。スポーツを通じて社会貢献活動に積極的に取り組む有森裕子さんは、ホットフラッシュに人知れず苦しんだ自身の経験から、更年期について積極的に発信している。悩んでいた最中は更年期の知識に乏しく、そのことが不安を呼び、症状を悪化させていたと振り返る。偶然、有森さんを救ってくれたものとははたして…?
有森裕子さん(57歳・元プロマラソンランナー)
《MY更年期STORY》 ■47歳:月経が不順に。メンタルも不安定に ■49歳:閉経。数年間、ホットフラッシュに苦しむ ■50歳:婦人科で低用量ピルを処方してもらい、ホットフラッシュが緩和 ■53歳:ピラティスとパーソナルトレーニング開始 ■57歳(現在):時々起こる不調ともうまくつき合えるように
イライラやホットフラッシュに悩む日々。知識不足で何が起きているのかわからなかった
「東日本大震災があった2011年、プライベートでも離婚やいろいろなことが起き、引退して数年がたっていたのでキャリアの転換期も重なって。そのあたりからメンタル的に自分を追い詰めていってました。 その後47、48歳頃でしょうか。生理も不順になってきて、気分の落ち込みもさらに激しくなって。誰にも見せない日記をつけていたんですが、目だけの絵を描くとか、けっこう恐ろしい心理状態の絵を描いたりしてましたね。 もともと性格的に感情の起伏が激しいタイプではあったけれど、その頃はもう気持ちよく清々しく過ごす日がなかった。怒らずに過ごせる日というのがなかったんです」 そう語る有森さん。五輪メダリスト、心身を鍛え上げ、トップアスリートだった人をも悩ませていた更年期不調。有森さんの場合、特に困ったのは更年期の代表的な症状として知られるホットフラッシュだった。 「その頃、更年期というものをよく知らなかったですから。女性の体に何が起こるかを気にしていなかったんです。 めまいとか頭痛とか、他の症状は全然ないんです。疲れやすいっていうのもなければ、息切れや動悸もない。手足はもともと冷えやすかったし。だから、ホットフラッシュが起きるようになって本当に困惑しました。汗のかき方が、とにかくひどい。もう顔がほてるどころか全身がほてる感じ。本当に強烈だったんですよ。急にうわーっと暑くなって汗が出る。そしてバーッと引いていく。1日に3、4回来るわけです、その波が。もうわけがわからない。 講演に行くと、せっかく衣装に着替えたのにバーッとホットフラッシュがきて汗びっしょりに。かと思ったらバーッと引いて、またバーッと来る…。着替えを持って歩くだけでも大変でした」 少しでも症状を緩和するために運動をしたり、ということもなかったという。現役を引退してからはほとんど体を動かしていなかったのだそう。 「動いたほうがいいって、そう思うこともイヤでした。痛みがあるから走るのをやめたのに、どうすればいいんだ?って。そうやってネガティブになるとまた波が来るんです」 沈むときもあるしイライラもする。ホットフラッシュも来る。なのに講演ではテンションを上げて話をしなければいけない。人を元気にしたはいいけれど、自分は部屋に戻ると逆にげんなり。堂々巡りの日々だったようだ。 「言葉に勢いを持たせるのがしんどくて。人を励ますのが仕事だから元気でいなきゃいけないと思っているのに無理。こんな自分が発信をしていいんだろうか? こういう状態でいつまで今の仕事ができるのか? このままメンタルがだめになっていくかもしれないとか、うつになるんじゃないかとか…。 数年はそんな感じでしたね。情報も知識もなくて、つらかったです」