技術科教育に「テコ入れ」要請も課題山積の現状 カギはSTEAM教育、「テクノロジー科」への期待感
技術科担当教員のスキルアップに向けた“テコ入れ”も
技術科の教員がいない学校では、指導にも影響が出かねない。とくに、先に述べた指導内容のデジタル化は、実生活でデジタル機器を活用していない教員も多く、ハードルが高くなりがちだ。 こうした状況を打開すべく、文部科学省は2024年2月に「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について」という通知を出し、技術科教員の人員確保やスキルアップに取り組むよう各教育委員会へ依頼している。 「文部科学省でも免許外教科担任(技術科の免許を持たない教員)を対象にした研修を行うなどして、スキルの底上げを図っています。自治体ごとにスピード差はあるものの、技術科教員の拡充に向けた動きは始まると思われます」 文部科学省から「技術科の指導体制を拡充せよ」という通知が出たことは、一見すると朗報にも思える。しかし、傍目にはこれまで技術科を軽視してきたようにも見える中で、なぜ今になってこのような方向に舵が切られたのだろうか。 「1つには、デジタル教育のさらなる加速を目指している背景があると思います。通知の中心が『初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチーム』であることからも、学校教育のデジタル化について、技術科が中心的な役割を担うべきだと判断されたのではないでしょうか」と山本氏は分析する。 技術分野の学習指導要領では、「材料と加工」「生物育成」「エネルギー変換」「情報」のそれぞれの技術を育成することを目指す。これらの指導で、デジタル技術の活用可能性を見出されたというのが実情のようだ。 「政府は最先端のテクノロジーを活用して、Society5.0の実現を提唱しています。そのためには、狩猟や農耕、そして工業社会を支えてきたものづくりの技術と、情報技術が高度に融合した社会システムの構築が不可欠です。しかし現在の『技術・家庭科』では、この構築のために必要な内容を学びきれません」 例えば、技術科の「生物育成」では、生物はもちろん、畜産業や水産業についても学ぶことになっている。日本の将来を担う産業の後継者を輩出するためにも必須の分野だが、とても学びきれないのが現状だ。ただでさえ、日本で技術科を学ぶのは中学校の3年間だけ。アメリカの学生が12年間かけて技術科を学ぶのと比べても、圧倒的に少ない。 「日本の国際競争力が下がっていることや、理学部・工学部に興味を持つ学生が減っている根底がここにあるのだと思います。世の中を、早い段階から技術的な視点で見ることは大切です。技術科専科の先生に聞いた話ですが、修学旅行でディズニーランドに行った時、技術科を学んだ生徒はジェットコースターを見て『どういう作りなんだろう』と疑問を持ってくれるのだそうです。でも、技術科を学んでいなければ、ただ「楽しい」で終わってしまうでしょう。技術科が、Society5.0の実現を構造化させる基盤になることを期待しています」
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