オリンピック効果を見込んだパリのホテルの大誤算
*この記事は、現地発の情報プラットフォーム「WorldVoice(2024年8月15日付)」の投稿を一部編集して転載しています。 【画像】日本とは全然違う...フランスで導入され、学生から猛反発を受けている「制服」のデザインとは? フランスが総力を挙げて取り組んできたパリオリンピックが終わり、その総括的なことが少しずつ表面化してきています。【RIKAママ(フランス在住ブロガー)】 パリという絶好のロケーションを存分に利用したオリンピックは、比類ない美しいものでもありましたが、問題視されたことも多々あったようです。 それでも、特に中盤から後半にかけて、フランスチームがかなり活躍したこともあり、フランス国内ではオリンピックムードが高まり、もともと自画自賛が得意なフランス人のあいだでは概ね良い解釈が大半を占めていますが、なかでも、このオリンピックに際して、オリンピック需要を最も期待していたホテル業界は期待どおりの結果は得られなかったと見ています。 <ダイナミックプライシングの失敗> そもそも、フランスはこのオリンピックで1500万~2000万人の観光客を期待しており、パリ及びパリ近郊のイル・ド・フランスには、13万室の宿泊施設があると言われています。その他、オリンピックのために動員される警察官、憲兵隊、公共交通機関の補助職員、オリンピックそのもののためのスタッフまで併せると、すべての人のための施設などが足りないのでは?とむしろ、宿泊施設が足りないことが心配され、ヴァンセンヌあたりには、オリンピックのために動員される警察官用のキャンプができたりしていました。 観光客が宿泊するであろうパリ市内のホテルは、ちょうどオリンピックまで一年を切った昨年の夏あたりから予約が始まり、パリ市内のホテルの価格が爆上がりするという現象がおきました。いわゆる需要と供給のバランスから価格を変動させるダイナミックプライシングがあるのはいつものことなのですが、その価格高騰がダイナミックすぎて、パリのホテルの価格は前年の2倍、3倍は当たり前。なかには5倍、6倍、10倍以上などというものまであったりして、パリ15区のホテルでは前年同日の予約が一泊90ユーロであったものが1363ユーロにまで値上げした!というところまであったそうです。そのうえ、予約の段階で全額支払い、キャンセル不可…なんていうものまであって、どう考えてもあこぎなやり方にもほどがある!と思ったものです。それでも、それがまかり通って予約が殺到する!とパリのホテル業界は考えていたのです。 ところが、いざオリンピック目前になってみると、むしろ観光客は例年よりも少なく、また、警備のための様々な規制等を嫌ってパリの住民たちは、パリを離れ、パリはガラガラの状態になりました。そもそも通常通りの価格であったとしても、パリのホテルは決して安くはありません。そのうえ、メトロのチケットまでもが通常価格の倍近い価格に跳ね上がり、そのうえ、オリンピックのために様々な規制が敷かれているパリは、観光するにも動き辛く、費用もいつもの何倍もかかるとなったら、観光地として避けるのは当然のことで、よほどオリンピックに感心のある人ならばともかく、そこまでの代価を払ってまでオリンピックを観戦したい、自国の選手を応援したいという情熱とお金に余裕のある人はそうそう多くはなかったのです。 ふたを開けてみればパリはガラガラ。ホテルの予約も埋まらないホテル業界は全くの見込み違いで「冷たいシャワーを浴びせられた!」ともっぱらの評判でした。実際に我が家の近くにも2軒、中規模のホテルがあり、内心、「このホテルもオリンピックの頃にはきっと満室になるんだろうな…このホテルが満室になったら、最寄りのバス停など大変なことになるのだろうな…気軽には外出できなくなるかもしれない」と思っていたのですが、若干お客さんを見かけることはあっても、これらのホテルが満室になる様子はオリンピック開催中、一度も見ることはありませんでした。 需要と供給に応じて、価格を変動させるダイナミックプライシングもこの値上げがあまりにもダイナミック過ぎると、機能しないうえに印象は最悪です。そもそもが物価の高いパリ、宿泊施設の異常な高騰は致命的ですが、その他なにをするにも異常にお金がかかります。 今回のパリオリンピックでは、パリに四半世紀以上住んでいる私でも見たことがないほどの異常な警戒ぶり、パリ中心部は特に数メートル歩くたびに警察官や憲兵隊の軍団とすれ違うくらい隙のない警戒ぶりで、駅やメトロの中にまで警察官がいるような状態でした。むしろ、いつもより駅もきれいに保たれ、安全であったと思われますが、観光客には事前にはそんなことはわからないわけで、パリでホテルを選ぶとなったら、それなりの場所でなくては治安の問題が不安だと思います。 そして、そのそれなりの場所は通常でも高いのに、その2倍、3倍の価格となれば、そんなバカらしい出費をしてまでオリンピックの時期にパリへ行こうとは思わない…それでも行きたい!と思うほど、世間一般のオリンピックへの期待は正直、なかったわけです。 住民からしたら、交通規制などの不便はあるものの、こんなに空いているパリはそんなにあるものではなく、オリンピックに彩られた景色を楽しむことができたのは幸いでしたが、ホテル業界にとってはあまりに思いあがった大誤算であったに違いありません。 結果論ではありますが、このフランスが総力をあげて創り上げたオリンピックをできるだけ多くの人に見てもらいたいというパリ市全体の観光を将来のことも考えるならば、そこまでの値上げをせずに、できるだけ多くの人々に来てほしいともう少し謙虚なところがあればよかったのに…そうでなくとも、お高くとまっていると思われがちなフランスの悪い印象がさらに誇張された気さえしてしまいます。