オリンピック効果を見込んだパリのホテルの大誤算
<ベルサイユの移動カートの中で>
私は特別にオリンピックに興味があるわけではありませんが、それでも自分の住んでいる場所でオリンピックが開催されることなど、一生のうちに一度あるかないかのことで、一応オリンピックに彩られた街の様子はひととおり見ておこうと馬術競技などをやっているベルサイユ宮殿に行ったときのことです。 ベルサイユ宮殿など、旅行で行くほどの距離ではないにせよ、中途半端な距離でふだんは滅多に行くことがないのですが、久しぶりにベルサイユ宮殿に行ってみました。広い広いベルサイユ宮殿の中、オリンピックの競技をやっている場所はほんの一画で、中を延々と歩きましたが、途中ボランティアの人が運転する小さな電気自動車が通りかかって乗せてくれました。ホッとしていると、ベルギーから来た観光客の家族が「一緒に乗せてください!」とやってきて、車の中でなんとなく、運転してくれているボランティアのおばちゃんとベルギー人の家族たちと宮殿の出口までの短い間、話をしました。 彼らが「ベルギーから来ているんだけど、とにかくホテルが高くてそんなに長居はできない」とぼやいていましたが、そのフランス人のボランティアのおばちゃんが、「パリのホテルはガラガラらしいけど…あまり儲けようとして欲ばるから結局こういうことになる…欲張り過ぎて、この結果はみっともない」と呆れるように言っていました。今回のオリンピックのボランティアは、もちろん、全員と接したわけではありませんが、フランス人でもこんなに感じのよい人々がこんなにいるんだ!と思うほどに好感が持てる人が多かったのは、今回のオリンピックで最も好印象を持ったところです。彼らは進んで英語で話しかけて救いの手を差し延べてくれ、また話してみると、このおばちゃんのように至極、もっともなことを言うので、なんとなく住民としてはホッとする気持ちになったものです。
<結果的にオリンピック期間のパリのホテルの稼働率は…>
ともあれ、日頃決して治安がいいとは言えないパリで、しかも世界情勢も不安定ななか行われたパリオリンピックでテロなどの大きな事件や事故が起こらず、無事に終了したことに何よりホッとしています。 当初は「冷たいシャワーを浴びせられた」と言われていたパリのホテル業界も、中盤以降のオリンピックの盛り上がりに連れて、少し数字を取り戻し、稼働率は平均約85%程度であり、ホテル業界に笑顔が戻ったと伝えられています。 パリ観光局は、外国人観光客がもっとも多く訪れた地区はパリ15区(2023年比24%増)、8区(6%増)、9区(24%増)と発表していますが、この地域を見れば、これはもう価格は全く関係ないほどの富裕層で占められたのではないか?と思われます。 また、最高に増加したのは、パリ市内ではなくサン・ドニ(パリ近郊・イル・ド・フランス)の205%となっているのが、一番現実感があるところです。サン・ドニは、大きなスタジアムのある地域であったことも大きな理由ではあると思いますが、恐らく何よりも価格的な問題も大きかったように思います。 また、選手村のあった地域でもあることから、オリンピック関係者が多く滞在していたことも考えられますし、中には選手村にエアコンが設置されていなかったことに音を上げた選手団の一部がホテルに移動したという話もあります。 サン・ドニは通常ならば、もし私の知人がパリに来るのにホテルをサン・ドニに取る…などという話を聞いたら、「ちょっとやめておいた方がいいと思うよ」と絶対に言うと思うような決して治安が良いとは言えない場所です。 そもそも、オリンピックのスタジアムをサン・ドニに!という話を聞いた時には、なんで、よりによって「サン・ドニ?」と思ったくらいです。しかし、あれだけの警戒体制が敷かれた中であれば、サン・ドニでも安全であっただろうとは思います。 しかし、結果的には稼働率が平均85%だったということは、まったく最後までガラガラだったホテルというのもけっこうあると思われ、少なくとも我が家の近所の2軒のホテルは最後までガラガラのままだったと思います。これらのホテルが満室状態になることを見込んで、最寄りのバス停などは大きく改築までして混乱を避けるために迂回経路を取ったりしていましたが、全くそんな必要はなく、何の混乱もなく、ただただ不便な思いをしただけでした。 パンデミックで一時、観光客がゼロになった時期もあり、オリンピックで巻き返しを!と思っていたホテルは少なくないと思われますが、欲張り過ぎたおかげで起死回生のこの機会を失ったホテルもパリには少なくないのではないか?と思われます。8月のパリはパラリンピックを控えているとはいえ、いつもよりもずっと静かです。
RIKAママ(フランス在住ブロガー)