サントリーモルツのCM「うまいんだな、これがっ」はなぜ凄いのか?「心を揺さぶる文章」で最も大事なこと
「言葉を紡ぐことは思考を紡ぎ、行動を紡ぎ、習慣を紡ぎ、人格を紡ぎ、運命を紡ぐ」と語るのは、コピーライターとして数々の賞を受賞した堤藤成氏だ。うまいことを言おうとしないからこそ、「心に響く」ことに気づかせてくれたのは、大学生のときに読んだ一通の手紙だった。本稿は、堤 藤成『ハッとする言葉の紡ぎ方 コピーライターが教える31の理論』(祥伝社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 父からの「元気ですか」が もたらした“気づき”とは 僕が大学生として福岡の実家を出て京都で学生生活をしていた頃、大工の父から手紙が届きました。あまり父は筆まめなタイプではなかったので、その突然の手紙はとても印象に残っています。今回、実家で荷物を整理していると、その手紙が出てきました。 藤成君元気ですか 寒さがきびしくなってきたんで風邪をひかぬように気をつけて うがいが一番いい予防だぞ 京都に行ってからもう一年近くになったなあ 大学の生活も慣れてきたかな 去年はお父さんも忙しいときだった。(中略) 今お父さんの親せきの家を(建てる仕事を)させてもらっている。 毎日のように何かをもらってくる 野菜とかイチゴなど食べきれないくらい テーブルの上にドサっとあるぞ。 藤成がいるなら ペロっと食べてしまうけど。 こんな時に藤成がいれば~と会話に出てくる。 食物=藤成だ 野菜果物はちゃんと食べているか 冬はうどんのような暖かい汁ものが体もぬくもるし、いいぞ。 これから冬の雪も多くなると思うから 自転車通学、用心しろよ。 僕は当時、家賃1万8000円のボロボロの家に住んでいました。そこに福岡の旬の野菜などといっしょに、こんな手紙が届きました。
1年前までは同じ屋根の下で、食べ盛りの自分がいた食卓。たくさんの食べ物を前にして、それを食べきれないときに、家を出て行った息子の存在を思い出すこと。僕自身が親になって、息子を持つ身になって、この手紙がさらに心を打つようになりました。 父は別にうまく書こうとはしていません。ですが、逆にそれがいい。ただ想いをそのまま感じたままに紡いだだけ。本人にあらためてこの手紙のことを聞いてみても、「こんな手紙、書いたやか」と照れていました。 ● うまいことを言おうとせずに 書くから心を動かすものになる うまいことを言おうとしないからこそ、心に響きます。感情のままに書き綴ること。それこそが饒舌でなくとも、一番心を動かす文章になる、と思います。 うまいんだな、これがっ。 (サントリーホールディングス「モルツ」/一倉宏) この一倉宏さんの書かれたモルツのキャッチコピー。一見ゴロッとそのまま感情を切り取ったようなこの言葉。だからこそ、強く心を揺さぶる力があります。 親からの手紙など、自分が心を動かされた言葉はできるだけ取っておくのがいいと思います。