総裁選のカギ握る? 自民党の「派閥」とは 功罪と栄枯盛衰
2021年総裁選めぐる派閥の動き
9月29日に投開票される総裁選は菅首相の任期満了に伴うものであるため、党員・党友も参加する「フルスペック」の総裁選となる。すなわち、1人1票の国会議員票(382票、編注※)と、同数の党員・党友票で争われる。党員・党友票は、382票が各候補の得票数に応じて配分される。第1回投票で過半数を得る候補が出ない場合には、上位2名で決選投票が行われる。決選投票では国会議員票382票と、都道府県連票47票で争われる。 今回の総裁選では、昨年と様相が異なり、派閥が前面に出てきていない。自派の領袖が候補となっている岸田派以外は各派閥とも事実上の自主投票となっている。若手議員を中心に、派閥が投票を拘束すべきでないとの意見が強かったためである。若手・中堅議員が派閥横断で「党風一新の会」を作り、若手の登用など党改革を求める提言を出していることも注目される。 こうしたことは、派閥の影響力低下というトレンドが確かなものであることを示していると考えられる。すでに述べたとおり、近年では派閥の支持よりも「選挙の顔」となるイメージが党総裁の条件として重要になっている。衆院選を控えており、しかも内閣支持率が低迷している現在の状況では、国民的人気の高い新総裁を担ぎたいという党内の要求が非常に高い。人気に欠ける総裁だと自分の選挙に不利になるため、地盤の弱い若手議員は特に、派閥の意向から自由になりたいとの希望が強い。 ただし、一般的に言えば、総裁選における派閥の役割が完全に消えたわけではない。総裁選という仕組みがある以上、候補者側が票固めの基盤として派閥を使うことや、一般議員が派閥を軸に情報共有や連携するのは半ば必然といえる。また、若手にとっては公認獲得や情報入手などの点で派閥所属が有利になることもある。そのため派閥には一定の役割が残っている。要するに、総裁になるための条件としては、党内支持(派閥の支持)と党外支持(一般国民の支持)の両方が必要になっているといえる。 この二つの条件のうち、どちらが優勢になるかは状況によって異なる。2020年の総裁選においては、支持率の高い安倍内閣の後継と目された菅氏に派閥の支持が集まったため、派閥の論理が優越したようにみえた。一方、今年の総裁選においては、内閣支持率が低い上に衆院選直前であるため、国民的人気の有無がかなりの程度重視されるだろう。 いずれにせよ、コロナ禍をはじめとして、急速な少子高齢化、膨大な財政赤字など日本が直面する多くの課題を乗り切れるリーダーシップが誕生することを期待したい。 (編注※)…竹下亘元復興相の死去に伴い、国会議員票は1票減って382票になった。党員・党友票は国会議員票と同数で設定されるため382票になり、投票総数は764票となった。
----------------------------------- ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など