トランプ氏指名のウクライナ特使による終戦計画、プーチン氏を喜ばせる可能性
価値観の変容
以下の二つの記述から、計画の策定者の考えに対するより広範な洞察が得られる。彼は国家安全保障にとって、米国第一の手法上、実際的必要性こそが重要だと説く。 「バイデン氏はトランプ氏のやり方をリベラルな国際主義者のものに置き換えた。それが促進するのは西側諸国の価値観と人権、そして民主主義だ」。この見解に基づいて欧州の安全保障を巡る妥協点を構築するのは相当に厳しい。 ケロッグ氏は加えて、ウクライナへの支援継続を批判する一部の人々についても言及する。その中には自分自身も含まれているようだ。同氏によればそうした人々は、「米国にとって極めて重要な戦略的利益がウクライナ戦争の中で危機に瀕(ひん)しているのではないかと不安を抱いている。米軍が戦争に関与するのではないか、米国がロシアとの代理戦争にのめり込むのではないかと懸念する。そうなれば事態は激化し、核による紛争を引き起こしかねない」。 上記二つの記述は、提案された取り引きの究極的な背景を示している。つまりウクライナの戦争にまつわる価値観を我が国が永続させる必要はなく、我が国としてはプーチン氏の核の脅威から距離を置くべきだとする見解だ。それは現行の西側諸国の結束とは対極に位置する。西側は自分たちの生き方と安全保障についての価値観を最優先している。根底にあるのは、譲歩によって独裁者を止めることは出来ないという1930年代の教訓だ。 計画はウクライナにとって、暴力に終止符を打つ歓迎すべき機会をもたらす。同国は現在全ての前線で敗北し、深刻な兵力不足に陥っている。状況を打開するのは不可能かもしれない中、一方のロシアは今後常に戦況で優位に立つ公算が大きい。 とはいえ、計画から始まる一連の流れは、狡猾(こうかつ)で不誠実なプーチン氏を喜ばせるだろう。停戦を利用し、西側の弱点に付け込むのは同氏の得意とするところであり、3年近くも待ち続けたのはまさにこの瞬間のためだった。計画は西側の戦争疲れを容認する。各国の兵器の生産は遅れがちで、掲げる価値観には無駄が多い。今後ロシアが展望を覆す行動に出た場合、対応は困難だろう。 計画は見通しの暗い戦争のために用意された、見込みの薄い妥協案に他ならない。しかし事態はそこで終わらず、新たな章を開くことになるのかもしれない。そこでは西側の結束と支援が崩壊し始める一方、プーチン氏が少しずつ成果を手にする。交渉のテーブルと前線の両方で、同氏は自ら掲げた目標へとさらに近づいていく。 ◇ 本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者の分析記事です。