まるで三菱UFJ銀行貸金庫窃盗を予見していたよう…40代女性行員が巨額横領に手をそめる狂気描いた傑作映画
■もはや職業倫理だけでは銀行での不正を防げない さらに経済格差にもつながる男女格差。銀行でも、女性社員の給料は男性に比べて低く、それでも40代の正職員ともなれば年功序列で人件費がかかることを厭われ、「本社の総務部に異動」という「肩たたき」に遭うことが描かれている。 梨花は、家庭でも上場企業の社員である夫に「たいした稼ぎもないのに」という目で見られ、夫が上海に転勤することになったときも、当然、銀行を辞めてついてくると思われている。それに反発して梨花が「仕事は辞められない。私だってそれぐらいの仕事をしているんだから!」と怒る場面が印象的だ。 もちろん、どんな不遇な環境にあったとしても、どんなに差別されていたとしても、他人のお金を盗んでいいことにはならない。今回の貸金庫窃盗事件でも、犯人を擁護できる情状酌量の余地はゼロだろう。 ■横領に始まり横領に終わる2024年 思い返せば、2024年の春には、メジャーリーグで活躍する野球の大谷翔平選手が、通訳の水原一平に約26億円を使い込まれていたことも発覚した。横領に始まり、横領に終わる、散々な1年だが、やはり大金を持つ人の身近にいて、その金を動かせる立場にあるとき、人はタブーを犯したい衝動にかられてしまうのかもしれない。 銀行での不正行為をなくすためには、「良い悪い」の職業倫理だけではなく、そういう人間心理をもっと深く広く理解し、格差というリスク因子にも注意するべきではないだろうか。 ---------- 村瀬 まりも(むらせ・まりも) ライター 1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。 ----------
ライター 村瀬 まりも