【実録 竜戦士たちの10・8】(29)『対落合博満』へ中日・高木守道監督は「ウチでやられていたのと同じ攻め方をしますよ」
◇長期連載【第1章 FA元年、激動のオフ】 1993年の中日選手会納会が12月13日、三重県の湯の山温泉で開かれた。会にはFA移籍が確実となった落合博満も参加。次々とあいさつに訪れた後輩たちから「ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかけられた。 その頃、巨人監督の長嶋茂雄は東京都内で開催されたラジオ局の激励会に出席。落合との交渉の進捗(しんちょく)状況を聞かれると、「条件的にもうまくいっているようですし、個人的にも良い感触を得ています。皆さんの期待に応えられるよう頑張りますよ」と上機嫌でうなずいた。 一方で、この日も吉村禎章が「自分の考えと差があった」と1200万円増の7500万円を保留。契約更改で中堅クラスの保留者が相次いでいることには「変にしこりを残すより何回でも納得いくまで話し合った方がいい。それが私たちの世界の決まりですから」と選手たちの”銭闘”を後押しする発言もした。 中日では1億円の攻防が注目される主力クラスの契約更改が15日にスタート。先陣を切ったのはプロ6年目のシーズンを終えた立浪和義だった。 3割にこそ届かなかったが、打率はパウエルに次ぐチーム2位の2割8分6厘。シーズン自己最多の16本塁打を交渉材料にして1億円の大台を狙ったが、球団提示は2000万円増の9000万円。約1時間の話し合いの末に保留となったが、こちらは和やかムードで交渉が進んだ。 「今年の1億にこだわらなくても、来年普通にやれば1億円は楽にいく。イメージを大事にした方がいいんじゃないか」と球団代表の伊藤潤夫。立浪も「今年のことだから、今年で終わらせたい。次は多分、判を押して帰るんじゃないですか」と笑みさえこぼした。 中日監督の高木守道と落合が岐阜県可児市で行われたチャリティーゴルフにそろって参加したのは16日のことだ。これが中日では最後の顔合わせとなる。 「ファン感謝デーのときに『頑張れよ』と声をかけているし、今日は特別(の話は)ないよ」と高木。ただ、対戦を想定した質問には、「もちろん、ウチで落合が相手にやられていたのと同じ攻め方をしますよ」と真顔で答えた。 「落合は緩い球には強いからね。山本昌の変化球? 内角を見せておけば、外に落ちるスクリューを本塁打されることはないよ」。こう言うと、不敵にニヤリと笑ってみせた。 =敬称略
中日スポーツ