【毎日書評】昔話『花咲かじじい』の欲張りじいさんは「パワハラ上司」?やらかした大失敗から学ぶ
『花咲かじじい』のあらすじ
むかしむかしあるところに、正直なおじいさんとおばあさんが住んでいた。ある日、2人が子どものように可愛がっていた犬の白が「ここ掘れ、ワンワン」と鳴くので、掘ってみると、大量の小判が出てきた。それを聞いた隣の欲張りじいさんとばあさんが、白を借りて同じことを試みるが、掘っても出てくるのは石ころや汚いものばかり。怒った欲張りじいさんは、白を殺してしまう。 正直じいさんとばあさんは、白の死を悲しんで庭に埋め、その上に小さな松の木を植えた。すると、松の木はみるみる育ち、巨大な木に姿を変えた。白の形見だと思った2人は、その松から臼と杵を作って餅をついた。不思議なことに、杵でつくほど米があふれ出し、台所中が米でいっぱいになった。 それを知った欲張りじいさんとばあさんは、今度は臼を借りて同じように餅をつくが、臼からはまた汚いものがあふれてきた。怒ったじいさんは、臼を壊して薪にして燃やしてしまった。 がっかりしながら灰を集めて帰宅した正直じいさんが、白のお墓のところまで来ると、どこからともなく温かい風が吹いてきて灰をまき散らし、それを被った桜や梅の木が、冬のさなかなのに花をつけ、満開の景色となった。 気をよくした正直じいさんが、往来で灰をまいて花を咲かせていたところに殿様一向が通りかかり、褒め称えた上にたくさんのご褒美を下さった。 別の日、欲張りじいさんがその真似をして灰を振りまくと、花は咲かずに殿様や家来に降りかかった。腹を立てた殿様は、欲張りじいさんを縛らせ、牢屋に入れてしまった。([「花咲じじい」楠山正雄] 91~92ページより)
欲張りじいさんの失敗の本質
佐藤氏は、まず最初の「ここ掘れ、ワンワン」の部分に関する欲張りじいさんの間違いは、「犬の白になにもやらずに、小判という成果だけを求めたこと」だと指摘しています。たしかに欲張りじいさんは、白を子どものようにかわいがって世話していた正直じいさんたちとは対照的に、嫌がる白を無理やり畑に引っぱってきたわけです。 佐藤 白の立場になってみれば、正直じいさん夫婦とは雇用関係があります。ですから、対価に従って奉仕するのは、ある意味当たり前なのです。そうでなければ、ゴミのような仕事しかしないのもまた、当然の話ではないでしょうか。 池上 だから、要するに「横取りはいけません」という話ですね、これは。 佐藤 そうです。自分がろくな努力もせずに、部下の成果を我が物にしたりしていると、後でひどい目に遭うわけです。(93ページより) 白が正直じいさんにもたらしたのは、対価にくらべるととてつもなく大きな成果です。しかし、これはビジネスの現場にもあてはまること。きちんと雇用して面倒をみていれば、ある日、社員が信じられないような大商談をまとめて帰ってくるというようなことも考えられるのですから。 池上 たとえ雇用していても、いやいや働いているような状態だったら、大きな成果は見込み薄ですね。いい仕事をさせたかったら、ちゃんとインセンティブを与えないと。 佐藤 それも大事なところです。 池上 「餌」はもちろん重要ですが、これは金銭的な報酬とは限りません。例えば、上が「あれやれ、これやれ」と言うような環境では、やる気は出ないでしょう。提案したことを「よし、やってみろ」と言われれば、徹夜してでもやりますよね。(94ページより)