潜在成長率とは何か、政府が「都合よく」利用している、日本経済まるわかり指標
財政再建計画との関係:PB黒字化の可能性が分かる
政府の財政再建計画は、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB、国債関係の収入と支出を除く財政収入と支出)の均衡を達成しようというものだ。小泉 純一郎内閣の時代に、「PBを黒字化する」という目標を掲げた。それ以降、毎年、財政収支の見通しが発表されている。 PBの均衡化には、税収が将来どの程度になるかが重要な意味を持つ。そしてその推計には、潜在成長率の見通しが重要な意味を持つ。 政府の財政収支試算では、2つのケースが想定されている。 第1は、「ベースラインケース」で、全要素生産性(TFP)上昇率が直近の景気循環の平均並み(0.5%程度)で将来にわたって推移するシナリオ。最新の推計では、潜在成長率は2024年度で1.0%、2033年度で0.4%だ。中長期的に、実質・名目で0%台半ばの成長となる。 第2は「成長実現ケース」で、TFP上昇率がデフレ状況に入る前の期間の平均1.4%程度まで高まるシナリオ。潜在成長率は2024年度で1.0%、2033年度で1.7%となる。中長期的に実質2%程度の成長となる。 後で述べる公的年金の見通しをはじめ、エネルギー基本計画などさまざまな長期計画や長期見通しで、以上の試算が参照されている。 しかしPBの黒字化は、これまで一度も実現したことがない。政府は2018年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2018)で、2025年度のPBの黒字化を目指すとしたのを最後に、目標の時期は明示していなかった。 6月21日に閣議決定された2024年度の骨太方針では、PBを2025年度に黒字化する目標を3年ぶりに復活させた。 ただし、内閣府の1月の試算では、成長実現ケースでも2025年度のPBは1.1兆円の赤字だ。だが、「2025年度のPB黒字化が視野に入る」としている。
公的年金との関係:年金財政に「問題なし」は当然か?
2024年は公的年金財政検証の年だ。検証の基礎となる長期のマクロ経済変数に関する想定(『令和6年財政検証の経済前提について』)が、4月12日に開かれた厚生労働省の専門委員会に提出された。 将来の潜在成長率が高ければ、実質賃金の伸び率も高くなる。そして、実質賃金の伸びがどの程度になるかは、年金財政の収支に重要な影響を与える。 これは物価上昇率がゼロの経済を考えるとよく分かる。この場合には、名目賃金の伸び率と実質賃金の伸び率は等しい。そして、実質賃金が伸びると保険料収入が増える。 他方で、その年の新規裁定年金額も増える。しかし、既裁定年金額は影響を受けないので、年金財政収支は改善される。つまり、実質賃金の伸びが高いことは、保険料を引き上げるのと似た効果を持つのである。 先の資料によれば、2034年度以降の賃金上昇率は下記のとおりだ。 成長実現ケース:2.0% 長期安定ケース:1.5% 現状投影ケース:0.5% 1人当たりゼロ成長ケース:0.1% 現実の日本では、実質賃金が下落を続けている。しかし、上記の見通しでは、最悪の場合でも、実質賃金の伸びはプラスだ。そして、「成長実現ケース」では2%という夢のような値になっている。こうした甘い想定の下で計算をすれば、年金財政に問題が生じないという結論になるのは、当然のことと言える。