潜在成長率とは何か、政府が「都合よく」利用している、日本経済まるわかり指標
さまざまな政策に密に関係している日本経済の「潜在成長率」。見通しの数値を正しく推計することは極めて困難だが、場合によっては見通しを都合よく政策決定に利用している。政策分野が異なっても、潜在成長率の見通しは整合的でなければならない。 【詳細な図や写真】図:1983年から2023年までの潜在成長率の推移(出典:日本銀行)
潜在成長率とは何か
潜在成長率とは、資源が完全に利用された場合に達成可能なGDP(国内総生産)の成長率のことである。生産関数(労働と資本によってどのように生産活動が行われるかを示す式)を推計し、労働と資本がどの程度利用可能かを推定することによって潜在成長率を推計することができる。 潜在成長率の見通しは、金融政策、年金財政の長期的な見通し、財政収支見通しなどについて重要な役割を果たす。また、エネルギー長期計画などとも密接な関わりがある。日本経済の潜在成長率については、いくつかの推計がなされている。 日本銀行調査統計局の試算値によると、潜在成長率は1980年代後半に4%を超えていたが、その後傾向的に低下し、1990年代後半から2005年ごろまでは1%程度になった(図)。 2010年ごろにマイナスとなったが、その後回復して、2014年には1%程度にまで上昇した。その後再び落ち込んでからやや回復し、2023年度下半期には0.66~0.68%となっている。
金融政策との関係:マイナス金利の“異常さ”が分かる
潜在成長率の推計が重要な意味を持つのは、まず金融政策だ。金利をどの程度の水準に設定するかという問題に密接に関わっている。 経済学では、「中立金利(注)」という概念が考えられている。実際の金利がこれより高ければ、金融政策は引き締め的であり、低ければ緩和的であるとされる。そして経済理論によれば、一定の条件の下で、自然利子率は潜在成長率に等しい。 注) 中立金利とは、景気やインフレを加速も減速もさせない金利水準のこと。 したがって、潜在成長率と物価上昇率が与えられれば、中立金利の名目値が分かり、これを金融政策の目安とすることができる。 たとえば、実質潜在成長率が1%で、物価上昇率が2%であれば、名目中立金利は3%となる。政策金利をマイナスの値に設定することは、物価上昇率がゼロで、しかも実質利子率がゼロかマイナスでないと正当化できないものだ。 その基準に従えば、日本ではこれまで10年間以上にわたり、異常な緩和が続いていたと言わざるを得ない。 また潜在成長率は、政府の財政再建計画とも密接な関係がある。