潜在成長率とは何か、政府が「都合よく」利用している、日本経済まるわかり指標
バラつき大きい潜在成長率を「“都合よく”使い分けてる」
将来の潜在成長率の推計は、簡単な課題ではない。GDPは労働と資本以外の要因によって大きく影響されるからだ。これを先にも述べた「全要素生産性(TFP)」という。 TFPには技術進歩などが関係しており、これが将来どうなるかを推計するのは難しい。このため、将来の時点での潜在成長率がどのような値になるかの推計は極めて難しく、結果にも大きなバラつきがある。潜在成長率について、唯一の正しい値を正確に知ることは困難なのだ。 しかしだからといって、場合によって都合の良い数字を使い分けるようなことがあってはならない。 税収も年金保険料収入も、実質成長率が高ければ伸びが大きくなり、事態は好転する。このため、公的年金の財政検証においても、財政収支見通しにおいても、高めの潜在成長率が想定されがちだ。エネルギー基本計画でも同様で、高めの成長を想定すると、将来のエネルギー需要が増え、原発再稼働が必要になる。 他方で、金融政策では潜在成長率が高いと、金利を高い水準にまで引き上げることが必要になる。場合によっては、経済に過度の抑圧的効果をもたらしかねない。このため、潜在成長率を低く見積もりがちだ。こうして、さまざまな政策が整合性を保ち得なくなる。 2019年の公的財政検証は、かなり高めの潜在成長率を見込んだ。しかし、このときの金融政策は、政策金利がマイナスで10年債利回り目標がゼロというものであった。こうした金融政策を正当化できる潜在成長率は、マイナスだと考えるのが妥当だろう。 潜在成長率の見通しが政策によって異なるという事態は、今回の財政検証においては、避けなければならない。
執筆:野口 悠紀雄