【インタビュー】松本明慶(仏師・78歳)「人の心の中には仏と鬼が住んでいる。自分を誤魔化さず、鬼の如く専心したい」
松本明慶(仏師)
─運慶・快慶の流れを汲む「慶派」の継承者として仏像を彫り続ける─ 「人の心の中には仏と鬼が住んでいる。自分を誤魔化さず、鬼の如く専心したい」 写真はこちらから→【インタビュー】松本明慶(仏師・78歳)「人の心の中には仏と鬼が住んでいる。自分を誤魔化さず、鬼の如く専心したい」 ──20体目の大仏を制作中です。 「この不動明王坐像(上画像)に取りかかったのは、かれこれ7年前。完成まであと数年はかかりそうです。今、日本で定期的に大仏を造ることができるのは、うちの工房だけでしょう。彫る技術があるだけでは、大仏は造れんのです」 ──どういうことでしょう。 「まず、それに相応しい木が必要です。大仏を造ることが決まってから木を探したんでは、間に合いません。少なくとも伐り出してから10年以上乾燥させないと、使いもんにならんのです。30年以上前の木を用いることもざらだから、いい木が出たと耳にしたら、自分で見にいって、丸太を買って製材し、保存しておく。彫るあてがなくても買う。こんなことをする仏師は、他におらんでしょう(笑)」 ──木像の大仏ではかなりの大きさです。 「高さ10mはありますからね。造る場所も大切なんです。私たちの工房は、鉄パイプとトタンでできていますが、みんな自分たちで組みました。普通よりも多くの鉄パイプで格子に組んでいますので、台風が来てもびくともしません。この鉄パイプに登って作業することもありますし、クレーンを使った上げ下ろしもできます」 ──大仏の設計図はあるのですか。 「木像の大仏は、複数の木を組み合わせる寄木造です。最初に10分の1程度の大きさの精巧な模型を造り、それをもとに、どの木のどの部分をどのくらい使うのか、見極めていく」 ──まず、木を見る。 「同じ木でも、ひとつひとつ違いますから、“表情”が異なるんです。これは、小さな仏像を一木造(いちぼくづくり)で造る時も同じです。木が、何をどう彫ればいいか教えてくれる」 ──木が教えてくれる。 「木にはね、仏さんが住んでいらっしゃるんです。木を見ると、何を彫ればええか見えてくる。例えば、新潟県中越地震(平成16年)がありましたでしょ。あの時、地震で倒れた樹齢180年の杉の木が3本、工房に持ち込まれました。“これで慰霊の像を彫ってほしい”との山古志村(現長岡市)からの依頼でした。木を見るとね、お地蔵さんがいらっしゃる。彫り出してくれとおっしゃる。この木から9体のお地蔵さんが生まれました」
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