押見修造「漫画を描くのは幼少期に抱えた傷の治癒行為」。『惡の華』『血の轍』にも通じる、映画『毒娘』前日譚の根底にあるもの【『ちーちゃん』インタビュー】
『惡の華』(講談社)や『血の轍』(小学館)といった漫画で、思春期の心の傷を丁寧に描き、ヒット作品を数多く生み出している漫画家の押見修造さんが、2024年4月5日公開の映画『毒娘』のキャラクターデザインを手がけた。映画公開と同日、『毒娘』の前日譚となる漫画『ちーちゃん』(講談社)も発売。『ちーちゃん』の見どころを、押見さん独自の漫画を描く時の思いと共に詳しく話を聞いた。
内藤監督と自分の創作の根底にある「みんな死ね」感
―押見修造さんが映画『毒娘』のキャラクターデザインを手がけたと聞いて驚きました。 押見修造(以下、押見):漫画家が実写映画のキャラクターデザインを務めることはあまりないことですよね。ですから、依頼を受けた時は驚きました。快諾したのは、『毒娘』の映画監督が内藤瑛亮さんだったからです。私は元々内藤さんの監督作品が大好きで、以前からご本人とも知り合いです。そういったことが『毒娘』のキャラクターデザインをすることになった大きな理由ですね。 ―その後に映画の『毒娘』の軸となる、暴力的でつかみどころのない少女ちーちゃんを主人公にした前日譚の漫画『ちーちゃん』を描くことになったのですか? 押見:そうです。最初は数ページでもいいからと内藤監督から依頼を受けたのですが、最終的には単行本1冊の長さになりました。ちーちゃんがどうして映画のような暴力的で不思議な少女になったのかは描いていません。『毒娘』はちーちゃんの昔住んでいた家に新しい家族が来るところから始まります。『毒娘』で、以前、ちーちゃんが人を失明させた事件についての話があり、その事件に至るまでの経緯を『ちーちゃん』で描きました。
田舎で表出する暴力性は、私の他の漫画『惡の華』や『血の轍』でも描いていて、ちーちゃんを含め私の描く人物たちは「みんな死ね」感があるんです。 ―「みんな死ね」感とは? 押見:私自身、思春期に閉塞感があり、「みんな死ね」とはっきり思わなくても、そういう感覚がありました。内藤監督の作品にも同じ感覚があり、シンパシーを感じています。 たとえば内藤監督の作品で、私の好きな映画のひとつに『先生を流産させる会』(2011年公開)があります。男子生徒が教師を流産させようとする実話を、男子生徒を女子生徒に性別を変えて映画化した作品で田舎での暴力性がとことん描写されています。そういった内藤監督ならではの作家性に共鳴しています。