有給休暇の消化を企業に義務付け これで休みは取りやすくなるのか? 早稲田大学教授・黒田祥子
一方、時季指定権が労働者側にある日本では、職場に対する遠慮から労働者が休暇を申し出にくい雰囲気が醸成されやすく、結果として有給休暇をフルで取得しにくい状況ができてしまっている。厚生労働省の『労働時間等の設定の改善の促進を通じた仕事と生活の調和に関する意識調査』によれば、年次休暇を取得する際に、「ためらいを感じる」あるいは「ややためらいを感じる」人の割合は65.5%で、休暇をとることを躊躇する人が多いことがわかる。また、ためらいを感じる理由の最多は「みんなに迷惑がかかるから」(71.6%)であり、「職場の雰囲気で取得しづらい」という回答も31.3%あった。日本でも、有給休暇の完全取得を義務化する一方で、時季の指定は企業ができるという仕組みに変えていけば、遠慮が生じにくい職場環境へと変化していく可能性も期待できる。 なお、上述のアンケートでは、ためらいを感じる理由として、「後で多忙になるから」という項目も多かった。ヨーロッパの企業では、労働者が長期休暇をとることを前提に、担当者間で常に仕事内容を共有し、誰が休んでも仕事が回るよう、普段から上司が仕事の配分をうまく管理をしている。日本の場合は、個人の仕事の分担が曖昧な職場も多くあるため、仕事の分担の明確化や不必要な仕事の洗い出し、情報の共有化などを普段から進め、いつ誰が休んでも仕事が回るようなバックアップ体制を整備しておくことが不可欠だ。制度や法律を変えて休暇取得を義務化するだけでは、長期休暇をとるためにその前後に無理をして超長時間労働をするという事態にもなりかねない。バカンスを楽しむ国へ変わっていくためには、制度だけでなく職場の働き方も併せて変えていく必要がある。 ーーーーーーー 黒田祥子(くろだ・さちこ) 早稲田大学教授。近著に『労働時間の経済分析――超高齢社会の働き方を展望する』(日本経済新聞出版社、共著)。専門は労働経済学。労働時間や働き方に関する研究を多数行っている。