有給休暇の消化を企業に義務付け これで休みは取りやすくなるのか? 早稲田大学教授・黒田祥子
有給休暇の消化を企業に義務付けることができるか、厚生労働省が検討に入ったと伝えられている。政府による休暇の取得促進はこれまでも行われてきたが、果たして今回の改革は、我々の生活に変化をもたらすものになるだろうか。 長い間、日本人はもっと休みを取るべきだと言われてきた。しかし、日本人の有給休暇の取得日数は、2012年時点で平均8.6日(『就労条件総合調査』(厚生労働省))。有給休暇の付与日数は平均18.3日なので取得率は47%と、半分にも満たない。政府は休暇取得の促進に尽力してきたが、1980年代末から90年代にかけて50~60%程度で推移していた有休の取得率は、2000年代に入ってからはさらに低下し、5割を下回る水準で推移している。ちなみに、取得率は業種によっても異なり、平均取得日数が最も多い業種は電気・ガス・熱供給・水道業で14.3日。しかし、最も少ない宿泊業・飲食サービス業になると、平均で4.9日となる。 これに対して、フランスやドイツでは20~24日程度の有給休暇をフルに取得する人が大半で、多くの国民にとって長期のバカンスは毎年の恒例行事だ。日本は諸外国に比べて祝祭日の数が多いが、そうした祝祭日の数を調整したとしても、日本人の休暇日数は相対的に少ないといえる。 現政権下で進められている一連の働き方改革の一環として、2014年9月、厚生労働省の労働政策審議会は休み方改革ワーキンググループを設置した。現在、同ワーキンググループでは、ワーク・ライフ・バランスの推進、生産性向上等の観点から、働き方とともに休み方を見直すことの必要性・重要性が議論されている。
今回、休み方改革ワーキンググループで検討されているポイントの一つは、労働者の希望を踏まえたうえで数日分の有休の取得日を企業が指定するという仕組みである。休みを取る時季を指定できる権利のことを、「時季指定権」という。時季指定権の企業への付与は、その他の働き方の改革とセットにするかたちで、2013年12月、規制改革会議からも提案されている。 現在の日本では、労働者が休みたい日に休みをとれるようになっているので、時季指定権は原則として労働者側にある。一見すると、いつ休むかを決める権利を企業側に移行することは、好きなときに休めるという労働者の権利を奪うという観点から、労働者の権利の低下を危惧する人もいるだろう。しかし、実は国民が長いバカンスを楽しむヨーロッパ諸国では、時季指定権は企業側にある。ヨーロッパの企業では毎年の始めに、その1年間で誰がどの時季に長期休暇を取得するかを決定するのが慣例となっている。その際、同時期に社員が一斉に休暇を取得すると仕事が回らなくなるので、企業側は休暇を取る時季が分散するよう、休暇取得の時季を労働者に指定できる権利を持っている。労使で協議・調整しながら、年始の段階で各労働者のバカンスの時季が決まり、その年間スケジュールが職場でも共有されるので、休む間のバックアップ体制なども事前に整備することができる。労働者は、予定された時季になれば、当然の権利として長い休みを楽しむことができる仕組みだ。