「編集者の私が物語を左右してしまったのではないか」文芸誌編集者の漫画を描く中で見えた、彼らの謙虚さとは【北駒生インタビュー】
『銀河のカーテンコール』の北駒生先生による、待望の最新作『書くなる我ら』(いずれも講談社)。主人公は、小説界に熱い風を吹かせたいと望む、文芸誌「群青」の編集者・天城勇芽。ある日、編集長から若い世代向けの新文芸誌創刊の計画を聞かされた彼女は、作家集めに奔走する。そんな彼女が出会ったのは、酪農家、ミュージシャン、前科者……様々な人生を生きる小説家たち。静かに、そして熱く物語を紡ぐ「書く」人と「編む」人たちの群像劇となっている。 本記事では『書くなる我ら』単行本第1巻の発売を記念して、北駒生先生にインタビューを敢行。もともと好きだったという小説を漫画で描く上での葛藤、そして実在の文芸誌への取材を通して得た新たな創作の糧とは?
小説界は色々な世代が描ける珍しい表現ジャンル
――まず、物語の舞台を小説界とされた理由を教えてください。 北駒生さん(以下、北):何かにひたむきに打ち込む人たちの群像劇に興味があったんです。物語の舞台が学校の部活や会社だと、性別や年代で区切られてしまうかもしれませんが、小説は老若男女が参入し各々が自由に表現できる場。作中で酪農家、ミュージシャン、女優と異なる職業の人たちが一堂に会するように、小説界は色々な世代が描ける珍しい表現ジャンルなのではないかと。 ――前作『銀河のカーテンコール』でも小説は物語の重要なキーとなっていました。北先生にとって小説は漫画を描く上で必ず取り入れたいテーマなんでしょうか? 北:『銀河のカーテンコール』では主人公が図書館司書だったので、小説という物語を誰かに手渡したり、実は関わっている人が作家であったり、確かに小説はものすごく大きな存在であったように思います。そういえば、デビュー作『夜光日和』の主人公は脚本を書いていましたし、過去10年の間で小説家は作中に何人も登場していますね。思い返せば言葉に従事している人たちの物語をずっと描いてきました。
文芸誌「スピン」「群像」への取材で得た、新たな創作の糧
――『書くなる我ら』を描くにあたり、文芸誌「スピン」「群像」の編集部に取材されたと伺いました。大好きな小説が生まれる場ということで、喜びと興奮もひとしおだったのではないかと思いますが、いかがでしたか? 北:もう素晴らしかったです。きっと編集部のみなさんは、就職先としてこの場所を選んだというよりも、ご自身の人生において小説がものすごくかけがえのない存在だったんだろうなと。そういったエピソードを実際に仰っていたわけではないのですが、発せられる言葉の中から伝わってくるものがある。みなさんが積み重ねてきた大きな山みたいなものがそびえ立っているような感覚があって圧倒されました。 そして、何よりもみなさんの作家への向き合い方。それぞれの敬虔(けいけん)さと言いますか、作家への静かな敬意をもとに物語が生み出されている。その尊さに心が洗われ、とても美しい気持ちになって編集部をあとにしました。 ――主人公・天城勇芽は文芸誌の編集者という役どころですが、取材が作品に活きたと感じた点を教えてください。 北:取材で見聞きしたものを足すのではなく、「引かされた」という感覚が大きいです。実は初期の段階では、天城にもっと漫画の主人公的な振る舞いをさせていたんです。 例えば、2話で天城が瞬に「物語ってね 生きる目印になるんだよ」と言うシーン。最初のネームでは天城の顔を主人公らしくアップにしていたのですが、それだとまるで自分の手柄にして話しているように見えてしまう。このシーンはもう少し引いた感じで抑え気味にしても伝わると思ったんです。それは取材を通して、実際に編集に従事されている方々は、敬虔な気持ちと慎重さを持ってお仕事なさっていることを知ったから。
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