「鼻綿棒」でPCR検査17回――カメラマンが体験した国際大会の感染対策とは
滞在するホテルは、一般客のいない「大会専用」。田口さんが事前に聞いた話では、出場チームの部屋はフロアごとに割り当てられる。違うフロアに立ち入ることはできない。食事もホテル内のレストランで取るが、利用時間は出場チームで重ならないよう調整されるということだった。 「そういうレストランで働いている人や、部屋を掃除する人も大会中はホテルに泊まり込みでした。感染対策で作ったバブル(泡)の外に出さない。選手たちのケガに備えて、レントゲンまでホテル内に持ち込んでいました」 出場は32チームで、1チーム当たり選手・スタッフ含めて30人程度。ただでさえ慣れない異国の地で、3週間あまりも窮屈な生活を強いられた。 「ホテル内では娯楽らしい娯楽もないし、使用できるはずだったトレーニング施設も消毒の問題で使えませんでした。感染対策で仕方ないんですが、缶詰め状態の毎日でストレスはたまりました」
ホテルから試合会場のアリーナへの移動も専用のバスを利用する。会場内のロッカールームでの着替えは禁止のため、選手はホテル内の自室でユニホーム姿になってバスに乗り込む。 会場についても決められたエリアしか立ち入ることができない。外部との隔離が徹底されている。 「ちょっとしたことで少しだけアリーナを出入りしても、そのたびにカメラバッグに消毒液をかけられます。おかげで日本にいたときは黒かったバッグが白っぽく変色してしまいました」と田口さんは苦笑する。 ハンドボールはハードなコンタクトスポーツだが、選手たちは試合後も休む間もなくホテル内の別会場に移動し、PCR検査を受けなければならない。
徹底されなかった対策
当初は田口さんも感心したハンドボール版「バブル」だったが、時間とともに随所にほころびも見えたという。 「たとえばレストランの利用時間は他チームと重ならないはずが、かぶったこともけっこうありました」 「食事はビュッフェ形式で、並んでいる料理を指してそれをホテルのスタッフが取り分けるという段取りでした。トングの使い回しで感染することを防ぐためです。ところがそのスタッフがいないときもありました。そういうとき、日本チームは『自分では取らない』とスタッフが来るまでじっと待っていたんですが、ヨーロッパの選手のなかにはマスクを外したまま自分で取り始めてしまう人もいました」