料理家・今井真実さんがたどり着いた、インターネット時代にあえて「レシピ本」を出す意義とその役割
そして、もう一つ忘れてはならない要素が、「本」は世に出るまでに手間がかかっているということ。 本書のコンセプトは「有賀さんのおうちのありのままのご飯」です。しかしそれであっても、どんな料理にするか、どんな構成にするか、レシピの見せ方はどうするか……この本の企画を立ち上げた編集者さんと有賀さんは何度も時間をかけて綿密に話し合われたと思います。一つのレシピには編集者と校正者、現場で試食をした方々と、何重にも客観視されているため、正確さも担保されているでしょう。 そしてビジュアル面での美しさも大切です。料理の一番良い状態を切り取るカメラマン、そして美しく料理を引き立てる器を選ぶスタイリスト、本の個性を最終的に決めるデザイナーのセンス。全員のプロフェッショナルな力の結晶が、「本」であり作品なのだと思います。 では、なぜ、手間をかけてまでやるのか。 それは関わる人たちが「レシピ本」の力を信じているのではないからでしょうか。1冊がひとりの読者の生活を変えることができるかもしれない、そう信じているのです。そして何冊出版しても、伝えたいことがまだまだあるから、本を作り続けるのではないでしょうか。 実のところ伝えることができれば、その手段は本でもWEBでもSNSでも動画でもなんでもいい。でも、どの方法がどの層に、誰に届いていくのかは未知数です。だから手段を選ばずに、あらゆる方法でレシピやメソッドを届けたい、最終的なゴールは、とにかくたくさんの人に伝える、悩みを一つでも多く解決するということなのです。
これがあるとないとじゃ、生活が変わります。今井さんの「くりかえし」料理は…
さて、最後に私の「くりかえし」料理を紹介しましょう。 「自家製すりおろし生姜」はとにかく便利。はちみつが入っていますが甘味はほんの少し。だからお醤油に溶かしてお刺身に付けたって大丈夫。 私は紅茶やお味噌汁にもポンポン毎日入れています。フードプロセッサーがあったらがーっとやるだけ。有賀さんのこの本を読んでいたら絶対生姜焼きを作りたくなるはず。そんなときに、自家製すりおろし生姜があると便利ですよ。 これがあるとないとじゃ、生活が変わります。 そう、地味だけど、私はこういうレシピを伝えたいんだなと思いました。 Staff Credit 撮影/今井裕治 ──── 今井 真実 Mami Imai 料理家 レシピやエッセイ、SNSでの発信が支持を集め、多岐の媒体にわたりレシピ製作、執筆を行う。身近な食材を使い、新たな組み合わせで作る個性的な料理は「知っているのに知らない味」「何度も作りたくなる」「料理が楽しくなる」と定評を得ている。2023年より「オージービーフマイト」日本代表に選出され、オージービーフのPR大使としても活動している。既刊に、「低温オーブンの肉料理」(グラフィック社)など。