「トップ集団と離れていてもサーキットを沸かせる」──ファインダー越しに見た長島哲太×ダンロップの挑戦
レーシングライダー・長島哲太の存在感
このレース、予選の順位は7位。長島選手は3列目のアウト側のスターティンググリッドだった。スマホをセットしヘッドフォンを付けると、すぐにバイクから一人離れてコンクリートウォールのそばに座るが、ただ人を寄せ付けない緊張感のある雰囲気ではない。時おり関係者と笑顔で言葉を交わしながらリラックスした中で集中力を高めている印象だった。 グリッドを撮り終え、コース脇のサービスロードを最終コーナー方向に移動していると、レーススタートに向けサイティングラップが始まった。場内の実況放送で「長島哲太」の名前を叫んでいるのが聞こえて来る。何か盛り上がっているようだった。撮影場所の90度コーナーに近づくと、ダウンヒルストレートから隊列を引き連れた黄色いバイクが先頭で進入してきた。 この姿に「長島哲太、さすがだな」と1人思わず笑みがでてしまう。予選のタイムではトップの水野涼選手から1秒7も離されている状況で、トップ集団と勝負にならないのは明らかだ。だからこそ、ここだけでも魅せて観客を盛り上げてやろうとする気持ちがビシビシとこちらに伝わってくる。自分の成績だけでなく常にレース界全体を盛り上げようと行動する姿や後進の育成への取り組み、そしてファンへの神対応にはいつも敬服してしまう。 レースはスタートダッシュを決め5番手に上がるも、やはり上位4台はどんどん逃げていく。序盤はスズキの津田拓也選手と、その後はホンダの高橋巧選手と名越哲平選手とのバトルになる。90度コーナーへ向かうストレートではライバル達に何度も並びかけられるも、ブレーキング勝負では最後の一伸びで絶対に抜かせない。必ず集団の一番前でコーナーに進入する。このハードブレーキングに長島選手の気合とレーサーとしての意地が伝わってくる。だが、そのバトルの最中、マシン左後方から時より白煙が見え出す。その後メインストレートに帰ってくるとオレンジボールの旗が出され、8周目の1コーナーで自らラインを外れマシンを止めた。 今回のもてぎのレースはマシントラブルによりリタイヤに終わった。しかしニューパーツや新設計のタイヤの導入などチームやダンロップの士気の高さを感じさせる大会だったと思う。レース後に長島選手にコメントを伺うと、「藤沢さんやチームのクルーも一生懸命仕事をしてくれていますし、ダンロップもめちゃくちゃ本気でやってくれているので、そこが自分のモチベーションになっています。誰も諦めていないですし、今の状況で良いなんて1ミリも思っていないです」と言う。これから折り返しの後半戦、レース数の少ない全日本ロードレースは、オートポリス・岡山・鈴鹿の残り3戦だ。 「まだまだ現状、現実は厳しい部分もありますが1戦でも早くそこを覆せるようにみんなで取り組んでいます。諦めなければ何とかなると思うので、それはしっかり忘れずに、とにかく全力でもがいて最終戦までには少しでも良くなれるように頑張りたいと思います」 現在の置かれた状況は、まだまだヤマハファクトリーやドゥカティに真っ向勝負を出来るような状態ではない。しかし誰も諦めてはいないし、無理だとは思っていない。このプロジェクトの3分の1にあたる1年目の最終戦・鈴鹿が終わった時点でどこまで進歩し、どの位置まで這い上がっていけるのか。この物語を追い続けたいと思う。