戦略をうまく実行できない企業が陥る3つの落とし穴
■なぜ戦略の実行段階で失敗する企業が多いのか ビジネス戦略を成功させるためには、2種類の異なる活動が不可欠だ。それは、戦略の設計と戦略の実行である。戦略の設計においては「私たちの戦略は我が社の環境に適したものになっているか」という問いに、戦略の実行においては「私たちは自分たちの意図をどの程度うまく実行に移せているか」という問いに答えなくてはならない。 この2つの問いはそれぞれ、異なるレベルの分析を実践し、明確なギアチェンジを行うことを必要とする。戦略の設計は組織のポジショニングに関わるものであるのに対し、戦略の実行は個人の活動に関わるものである。 この両方を高い水準で実現できている企業はほとんどない。筆者の経験から言うと、たいていの場合、問題は戦略の実行のほうにある。戦略立案者は、実行の段階へ移行する際に、以下の3つの落とし穴のいずれかにはまることが多い。 ■落とし穴1:誰もが首を突っ込みたがる エマは、ある国の国税局(OSR)で法人部門の責任者を務めている。この機関では、毎年2日間を費やして、合宿形式で戦略プランニングを行っていた。「オフィスから離れた場所に集まり、戦略を練っています」と、エマは説明する。「リラックスした環境で、未来について考える機会を持てるのはよいのですが、誰もが何か一言、言いたがるのです。それも、ただ発言するだけでなく、首を突っ込みたがります」 要するに、マーケティング、人事、IT、オペレーションなど、さまざまな部署のスタッフがそれぞれの言い分を押し通して、自分たちが推進したいプロジェクトを採用させようとするのだ。その結果として、「取り組む業務が盛りだくさんになりすぎてしまいます」と、エマは言う。 「その結果、多くのことに手を出しすぎて、どれもやり遂げられなくなってしまうのです。そうすると、自分たちがいつも失敗してばかりいるように感じ始めます。それでも懲りることなく、次の年にはまた同じことを繰り返し、戦略プランニングのために集まっています」 ■どうすれば解決できるか:異なる視点に基づいて活動を厳選する クリフォードは、従業員数4500人の新聞・雑誌・オンラインメディア企業でビジネス出版部門を率いている。「どのような戦略上の取り組みを行うかは厳選しています」と、クリフォードは言う。「最も見返りの大きいものだけを選びます。具体的には、自社のビジネスへの恩恵が最も大きく、しかも主要なステークホルダーにとっての意義が大きいものを選ぶことになります」 こう述べた後、クリフォードは重要なことを指摘した。「自社がどの分野で強みを育むことにしたかを、上司たちが明確に理解しています。この点は好材料といえます」 エマのケースとクリフォードのケースの違いに目を向けてほしい。エマの職場では、マネジャーたちは、それぞれの部署が推進したいプロジェクトを採用させようと思って戦略プランニングの集まりに臨む。そうしたプロジェクトのほとんどはオペレーションに関わるものであり、それらを片っ端から採用する結果、たちまち業務量が膨れ上がりかねない。 それに対し、クリフォードの職場では、マネジャーたちがステークホルダーの視点を持ち込む。採用されるプロジェクトのほとんどは戦略的なものであり、数はあまり多くならない。この両者の違いは、よくいわれる「インサイド・アウト」のアプローチと「アウトサイド・イン」のアプローチの違いと言ってよいだろう。 ■落とし穴2:計画に基づくアクションが不足している エマによれば、自分たちの職場が能力を存分に発揮できずにいる原因は、戦略プランに盛り込まれる取り組みが多すぎることだけではない。アクションを起こすための計画が欠如していることも大きな原因だ。 「私たちはたいてい、戦略プランニングの話し合いを終える時、やる気満々で、多くの活動を実行するつもりでいます」と、エマは説明する。「けれども、職場に戻ると、日々の業務に忙殺されて、それどころではなくなってしまいます。全社規模の取り組みを具体的なアクションに転換するための試みは、ほとんど行われていません」 ■どうすれば解決できるか:アクティビティではなくアクションを確実に実行する クリフォードは、戦略の実行に多くの時間と労力を割いている。「アクションのプランニングとは、『スタッフを訓練する』といった類いの漠然としたものではありません」と、クリフォードは言う。「それは単なるアクティビティです。アクションとは、過度に詳細なものであってはならないけれど、具体的なものでなくてはならないのです」 たとえば、クリフォードはこのような例を挙げる。「ビジネスへのAI(人工知能)活用についての研修プログラムを構築するというのは、具体的な内容といえます。期限を設定できて、担当者と責任者も決めることができるからです。それに対し、漠然と意図を表明するだけでは、望むような成果は上げられません」 ここでもエマのケースとクリフォードのケースの違いに注目しよう。アクティビティ(プロセスの説明)とアクション(具体的な行動)は違う。クリフォードとそのチームの面々は、アクティビティではなく、アクションを設計することで、すべての取り組みをやり遂げている。実行の妨げになっている要素すべてに目を光らせる一方で、それがステークホルダーにどのような結果をもたらしているのかをチェックし、着手した取り組みをすべて完了させることができているのだ。