戦略をうまく実行できない企業が陥る3つの落とし穴
■落とし穴3:説明責任を確保するためのメカニズムが欠けている エマが強調した3つ目の問題は、説明責任を確保するためのメカニズムが欠けていることだ。「報告のシステムと説明責任のメカニズムが存在せず、プランの実行を確保できないのです」と、エマは言う。「それに、採用されている評価指標は、私たちが何を成し遂げているかではなく、何を行っているかに焦点を当てる傾向があります」 このようにアウトカムよりもアクティビティに重きを置く傾向があるのは、「私たちの戦略プランがステークホルダーではなく、部署を中心に形づくられているから」だとエマは考えている。「そうした状況にあるにもかかわらず、政府は私たちに対して、政策上の目標をどの程度達成しているかを示せと迫るのです」 しかも「(最高責任者が)現場に直接関わっているとは、お世辞にもいえません。彼女は現場に無関心で、デスクの前を離れようとせず、ほぼ会議ばかりしています」という。 ■どうすれば解決できるか:適切な報告のメカニズムを設計する トレバーは、米国のいくつかの州に支部を持つ人身傷害事件専門の法律事務所のトップだ。ただし、トレバー自身は弁護士ではない。金融業界の出身で、数年前にこの法律事務所にやってきた。トレバーには、嫌いな言葉がある。必要以上に「戦略」「戦略的」という言葉が用いられることを非常に嫌っているのだ。また、「会議のための会議」も好まない。 トレバーは、本当に意味のあるいくつかの指標にだけ注意を払うものとして、言わば「KPI(重要業績評価指標)による死」に陥らないように気をつけている。「事務所全体の成績表」は、主要なステークホルダー──トレバーによると、依頼主、従業員、事務所のパートナー弁護士(共同経営者)、地域コミュニティが該当する──に及ぶ影響を中心に構成している。この点に関して、サプライヤーはあまり重要視していない。 トレバーが特に重んじているのは、本人が言うところの「先行指標」だ。たとえば、弁護士の人数を増やすという戦略をどのようにモニタリングしているかについて、次のように説明している。「事務所の売上げや問い合わせの数など、ありきたりのことに関しては報告書が上がってきます。けれども、私が知りたいのは、問い合わせが受注につながったのかどうかに関するデータです。この情報を得られないと、現場が人手不足で依頼を断っていても、私には知りようがありません。本当は弁護士の採用を増やすべきなのに、私が気づかない可能性があるのです」 トレバーは、意味のない数字には関心がない。知りたいのは、自分の戦略がうまくいっているかどうかだ。 また、トレバーは、報告のメカニズムに関しては、数値指標や書面の報告書では満足しない。5人の直属の部下に状況を毎日確認している。「(部下の)部屋に顔を出して、調子はどうかと尋ねます」という。それに加えて、月に1回は幹部チームの会議も開く。これは「30分の給湯室トーク」のようなものだという。なぜ毎週会議を行わないのか。この問いに対しては、「週に1回だと多すぎると思うのです。定期的に腰を落ち着けて会議をするのは好きでありません。時間の無駄になるので」と答えた。 エマの職場との違いは明らかだ。トレバーは、アクティビティではなく、アウトカムを軸にした指標を採用していて、物事がうまく機能するように、現場に直接関わり、非公式で双方向型のアプローチで臨んでいるのである。 * * * 戦略が失敗する原因はさまざまだ。したがって、企業にせよ、政府機関にせよ、非営利団体にせよ、みずからの組織の現状を率直に分析評価する必要がある。あなたの組織では、戦略づくりだけで満足していて、その戦略を実行に移さないままになっていないだろうか。もしそうであれば、いま自分たちが行っていることを厳しい目で見直したほうがよい。 あなたの組織が戦略プランニングに真剣に取り組んでいるのであれば、それは素晴らしいことだ。しかし、戦略プランニングに有効な実行が伴わなければ、あなたの組織が秘めている力を存分に発揮することはできない。 "3 Traps to Avoid When Executing Your Strategy," HBR.org, December 05, 2023.
グラハム・ケニー