9000万人が「気候変動に関連する危険の高い国」で暮らす現実…COP29で元難民女性が語った悲惨な体験
<世界で避難を余儀なくされている人は1億2000万人以上と、過去10年で2倍に。そのうち9000万人が気候変動に関連する危険の高い国で暮らす>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[バクー発]「気候危機は人間の危機だ。世界中の何百万という人々が暴力や紛争、気候変動に関連する災害のため家を追われている。今日、世界で強制的に避難を余儀なくされている人々の数はかつてないほど増えており、過去10年間で2倍の1億2000万人以上にのぼっている」 【写真】「乳児はへその緒を割れた石で切られ...」 自身の難民生活の経験を語ったグレース・デュロングさん アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で発表された国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告書「逃げ場はない。気候変動、紛争、強制移住の最前線で」は訴える。 「紛争が避難の主な原因であることに変わりはない。しかし気候変動はこの壊滅的な現実をさらに悪化させる恐れがある。避難民は洪水、干ばつ、熱波といった災害への備えにも苦労している。9000万人の避難民が気候変動に関連する危険の高い国で暮らしている」 ■極端な気候災害に直面する国は65カ国に激増 過去10年間で気候災害は1日当たり約6万人に相当する2億2000万人の国内避難を引き起こした。昨年はその4分の1以上が紛争の影響を受けた脆弱な環境で起きている。2040年までに極端な気候災害に直面する国は3カ国から65カ国に増加すると予想される。 その大半は避難民を受け入れている国々だ。猛暑の日も著しく増加し、50年までにほとんどの難民居住地やキャンプで猛暑に見舞われる日数が2倍になるという。強制的に避難させられた人々の半数近くが紛争と気候変動の悪影響の両方の重荷を背負っている。 南スーダンの紛争から逃れたグレース・デュロングさんは幼少期の大半を有刺鉄線に囲まれたカクマ難民キャンプ(ケニア北部)で過ごした。プラスチックのシェルター、トイレにはひどいにおいが充満していた。「祖国の戦争で両親からも周囲からも先祖からも引き離されました」 ■へその緒を割れた石で切られる乳幼児たち 故郷での居場所を奪われた後、グレースさんは何度も過酷な洗礼を受けた。干ばつに見舞われ、カクマにたどり着くまで酷暑に襲われた。「カクマは私に家を与えてくれると思いましたが、結局は私が受けた教育以外はすべて一時的なものに過ぎませんでした」 住み家を追われ、唇やつま先が乾いてひび割れた。あきらめるか、希望を持ち続けるかの選択を迫られた。「私はよくフライパンから火に移ったと言います。難民には逃げ場がありません。ある方向に逃げればある危険に遭遇し、別の方向に逃げればまた別の危険に遭遇するのです」 ■「自分の将来を変える教育を受けたい」 気候変動で南スーダンも干ばつ、洪水など、さまざまな危険に直面している。報告書は茂みの中で出産している女性たち、乾いた寝床がないため一晩中、水に濡れて過ごす女性たち、へその緒を割れた石で切られている乳幼児たちの別離と絶望を生々しく描き出す。 グレースさんは「ルート・オブ・ジェネレーションズ」の創設者でエグゼクティブ・ディレクターを務める。「自分の将来を変える教育を受けたい」と民間パイロットの訓練を受けるため奨学金を獲得したが、訓練コースの門は女性には閉ざされていた。 別の科目を選び直したグレースさんは学士号を修了し、その後、経営学修士(MBA)を取得した。「女性が犠牲者ではなく、構築者となる社会を目指しています。教育、医療、暴力からの保護、経済的安定など、女性が自分たちの権利を活用できるよう支援しています」と話した。 フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は「人の移動と気候変動、気候危機は交差しています。それは減少するのではなく、増加傾向にあるのです。人の移動、気候変動、紛争の3つの関係性は非常に複雑です。その複雑さを理解することが重要なのです」と訴えた。