過去最高益!データ主義で顧客を振り向かせる「三越伊勢丹」の戦略
2024年8月22日、準備中の企画をメディア向けに発信する食品プレス展示会が開かれていた。 「お客様が自由に4つ選んで、箱に詰めてお渡しします」(三越日本橋本店バイヤー・藤澤龍生)と言うのは、デパ地下に集まる店に協力を求めた「組み合わせ弁当」だ。 80種類の味わいを自由に組み合わせることで、150万通りの弁当が作れるという。 「うなぎの『ての字』さん、牛すきの『浅草今半』さん、江戸前寿司の『九段下 寿司政』さん、京料理の『美濃吉』さん……これだけのブランドの商品がないとなしえない。それを一堂に会して、選ぶ楽しさをお客様に体感していただける企画になっています」(藤澤) 百貨店にしかできないことで暮らしを豊かにする。その挑戦に終わりはない。
1階フロア大改装で復活~福岡の百貨店で何が起きた?
細谷が伊勢丹に入社したのは1987年。その後、厳しい時代を迎える百貨店でさまざまな店舗の改革を行った。30代の時には、マレーシアのクアラルンプールにあった伊勢丹の店舗で5年間勤務。業績を一気に改善して見せる。 細谷の百貨店改革の仕事は福岡でも。経営難に苦しむ中、2009年に三越伊勢丹HDの完全子会社となった岩田屋だ。 2018年、岩田屋三越の社長を任された細谷は、客を呼び戻すべく、1階フロアの大改装に踏み切る。中央を占めていた日常使いの雑貨売り場を撤去。広大な化粧品売り場に一変させた。 「同じ日常的に使うものでも、化粧品は高揚感が高まる。『スピードをもってやりなさい』と変えていったのが一番大きかったところです」(岩田屋三越営業本部長・原一征) 細谷が目指したのは九州最大級の約50ブランドの化粧品売り場。すると客が徐々に戻って来た。さらに館内に、高感度の新たな店を次々に誘致する。 見て回るだけでも飽きない商品が並ぶ「島村楽器」岩田屋福岡店。400万円のバイオリンまで品揃えしている。六本木でも人気を呼ぶ入場料がかかる書店「文喫」福岡天神(大人平日2時間1100円、コーヒーなどおかわり自由)にも、常連客がついている。 百貨店改革で細谷が最も大切にしてきたのが、現場社員との対話だ。 この日の相手は食品スーパー「クイーンズ伊勢丹」の店長たち。 「スーパーマーケットで『マスから個へ』をどう考えています?」など、なんでも質問を受け付けるのが細谷のスタイルだ。こうした対話をすでに3000人以上と行ってきたという。 参加者の一人は「ありがたいです。社長の口から『世界に』という言葉が出たので、そこを目指していけるんだと感じました」と言う。