「自民完勝」日本政治史初の年金が争点の選挙 政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録『ルポ年金官僚』より#2
これに猛反発したのが、尾崎重毅事務局次長だった。 「いやしくも国民年金というものをつくる以上は、拠出制を原則にすべきではないか」 周囲は、尾崎が厚生年金保険課長という立場も兼ねていたため、拠出制のみにこだわるのだろうと感じていた。 ■「そんな考えは紙くずと一緒に捨ててしまえ」 だが尾崎が言いたいのは、国民の心理的なことだった。 「とにかく日本国民というものは、もらうものは喜んでもらうけれども、出すのはいやがる。例えば年金をもらうことになった場合、5000円じゃ少ないから1万円にしろ、1万円じゃ少ないから2万円にしろという。そういう圧力というのは必ず政治家にかけてくる。政治家はそれを大蔵省なり厚生省に言う。そうすると国家財政上大変なことになるんじゃないか。やはり、もらう以上は出すことも考えなければいかん。資本主義社会というのはそういうものなんだ」
加藤参事官は保険料を出せない人の手当をしつつ、基本は拠出制にすべきとの考えだった。 「無拠出にすると大蔵省は財政の都合で、もうこれ以上出せませんということになり、年金が立枯れになってしまうだろう。拠出制だと、実質価値が維持されないじゃないかという事になるだろうが、いずれ必ず物価に対応させるだろう。だから拠出制にしたい」 逆に岡本参事官は、無拠出制なら大蔵省が給付を上げることにストップをかけるのではと見ていた。
「無拠出にしておけば財政的にこれ以上は出せませんということは言えるわけです。ところが拠出制になったら、最初のうちは受給者がいないから出すものは出さないで、給付のほうだけどんどん上げちゃうんじゃないか」 尾崎局次長は、自身が四面楚歌になっているように感じた。加藤たちは、全国民を対象にした年金はどうしても抜け落ちる人が出てくる、それを補うには無拠出も必要だ、との考えで無拠出制を提示したに過ぎないが、尾崎は無拠出の先行を阻止したいあまり、苛立ちを見せるようになる。