美輪明宏「春が来た」「春の小川」「鯉のぼり」「茶摘」…私が小学唱歌を歌うのは、失ってはいけない日本の姿を伝えたいから
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 7月号の書は「おぼろ月夜」です。 【美輪さんの書】思わず歌詞が浮かんでくる、美輪さんの書 * * * * * * * ◆私の好きな小学唱歌「おぼろ月夜」 私の好きな歌に、小学唱歌があります。たとえば「おぼろ月夜」という歌は、みなさん、よくご存じでしょう。私はこの歌が好きで、これまでリサイタルのレパートリーに取り入れたり、レコードやCDに収録したりしています。 里山が暮れてゆき、手前は菜の花畑。家路につく人が小径を歩き、鐘の音やカエルの声も聞こえてくる。そして空には、霞がかったお月さまーー。歌を聞いた人は、「懐かしい風景が映像となって脳裏に浮かんでくる」とおっしゃいます。 メロディーの美しさも、この歌の魅力です。曲調と詞が一体となり、心にすーっと、心地よく染みていく。「おぼろ月夜」は、私だけではなく、矢野顕子さん、槇原敬之さん、中島美嘉さんなど、さまざまなミュージシャンが歌っています。それだけ、時代を超えた魅力がある歌、ということでしょう。
◆私が小学唱歌を歌い続けてきた理由 この歌は、『尋常小学唱歌 第六学年用』に載っていました。尋常小学唱歌がまとめられたのは、明治44年から大正3年にかけて。学年ごとに20曲ずつ選ばれ、6学年分で全120曲あるそうです。そのなかには、いまも歌い継がれている歌がたくさんあります。 「春が来た」「春の小川」「鯉のぼり」「茶摘」「我は海の子」「村まつり」「紅葉(もみじ)」「故郷」「冬景色」……。いずれも四季おりおりの美しさや暮らしのなかの情景を歌ったもの。いわば日本の原風景が描かれている歌、と言ってもいいかもしれません。 私が小学唱歌を歌い続けてきたのは、失ってはいけない日本の姿を、みなさんの心にお届けしたいと思っているからです。また小学唱歌以外にも、「早春賦」「里の秋」といった童謡も好きで、ふとしたときに口ずさみます。 日本の心の故郷ともいうべきこうした歌は、これからも歌い継いでいってほしい。子どもや若い人にも、ぜひ伝えていきたいと思います。 ●今月の書「おぼろ月夜」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏