「役職定年制廃止」は“加速”と断言する理由、シニアが「失うもの」とは
減りゆく役職定年制
役職定年制の導入企業は減少している。人事院が公表した令和5年(2023年)の民間企業の勤務条件制度調査結果によると、「役職定年制がある」という企業は16.7%だった。これは平成19年(2007年)の23.8%から減少していることが分かる。 役職定年制は大企業に多いイメージがあるが、実際には令和5年(2023年)の調査結果で、「役職定年制がある」企業の割合は、従業員「500人以上」で27.6%、「100人以上500人未満」で18.4%、「50人以上100人未満」で10.7%と、大企業での割合が高い。いずれの企業規模でも平成19年(2007年)と比較して減少している。 役職定年制の廃止は国も後押ししている。厚生労働省が2024年9月に公開した「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」では、役職定年制や定年制の見直しを行った14社の事例が示されている。そのうち9社は役職定年制廃止に言及しており、その他の会社でももともと役職定年制を導入していなかったり、役職を年齢で縛らない対応をしていたりする例が多い。 65歳までの雇用確保を企業の義務とし、70歳までの就業機会確保を努力義務として長く働き続ける世の中にシフトしていく中で、50代で役職を外すことが現実的ではないと見ているのだろう。 以前は若手にポストを譲る目的だったが、少子高齢化で若手の採用自体に苦戦する企業も多い。年功序列から成果主義へ、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へとシフトする企業が増える中で、年齢でポストを譲り渡すのではなく、全年齢から能力や成果で抜てきする制度の方が適しているだろう。 実際、前述の厚労省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」でも、役職定年制廃止だけではなく、人事評価制度の改革も実施している例が多く見られる。
役職定年で“アレ”を奪われた…
役職定年制がシニアのやりがいや給与に影響を与えている。 シニアの転職を支援する当社でも、役職定年で給料が下がったり、やりがいがなくなったことをきっかけに転職を目指すシニアは多い。役職定年制があっても完全に肩書がなくなるわけではなく、「参与」や「専任部長」として部下を持つ立場に残るケースもあるが、これまでと異なる仕事に戸惑いや無気力感を覚える人もいる。 特に銀行などでは、40~50代でグループ内の企業に転籍となる文化があり、金融業務からまったく異なる業務に変わることに戸惑うシニアも多い。カーディーラーに勤める自動車整備士などでも、腰痛などの理由で一定年齢以上の社員をフロント業務に転換する場合があるが、「車と触れ合う仕事がしたい」という人にとっては転職の動機になることがある。 役職定年の年齢は多くの企業で55歳である。これは55歳が転職の難易度が急激に上がる年齢であるためだ。そのため、役職定年を見越して、役職が最高潮の50代前半までに転職したいと考える求職者も増えている。 転職先には、希望給与が実現する会社や自分がやりたい仕事の求人がある会社が挙がるが、それ以外にも役職定年制がない会社や定年制そのものがない会社、または定年が70歳などで長く働ける会社が候補に挙がる。