中学の時に突然父を亡くし…その後、母は車いす生活に『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』自身の体験を力強くそして面白く発信していく理由とは
家族のことを前向きに発信していく思い
家族のことを前向きに発信していく理由を聞くと「単純に面白いからかな…だから発信は自分のためにやっています」と笑う奈美さん。 「すごく苦しくてつらくて悲しい経験は、一周回って『よくこんな中で生きてきたな、よくやったよね』って思うんです。そして 『ちょっと聞いてや』と人を笑かそうとするくらい、他の人に聞いてほしいという気持ちになってきます」 自分1人で抱えていたら悲劇のままだったけれど、そうやって話すと喜劇になり「ようやったよね!自分」と思えたのです。 根底には悲しさや怒りもあると思うけれども、不幸そうと思われることはすごく嫌なので「面白い話って聞きたいよね、私も面白い話をしたいし」という気持ちで発信を続けているといいます。
弟に仕事が舞い込む出来事が…
奈美さんが本を出版したときに、弟が手書きしたページ番号を取り入れました。本の良さや温かみを全部知り尽くしている、装丁家の祖父江慎さんが「このエッセイには弟でしょ」と提案してくれたといいます。 「同じ数字の1でもエッセイのページごとに全然違い、すごく味があるなと思いました。でも世の中が思っているほどの姉弟の感動はなく、すごいな、よく頑張ったなと思う一方で、なんでおまえが褒められんねんという悔しさもありました(笑)」と冗談を交えながら当時の心境を笑顔で話します。 その後、奈美さんの本がきっかけとなり、弟に仕事が舞い込んできたのです。 それは「ほぼ日手帳という商品の、カレンダーの数字を書く」という仕事。そのことに対して、奈美さんは「すごいな~、これはおもろいことなるで~」と思ったといいます。 また、弟は作業所に通っていますが、最低工賃はあるもののそれはお昼代・弁当代程度のお金にしかならないことを話し「自分で稼いだお金を使うという体験を弟はしていないので、消えてもいいお金(自身のお金で余暇を過ごすためのお金)を使う体験ができたのはとてもよかったです。私自身が買い物を楽しいと思うから、この楽しさを弟も楽しいと思うかどうかはわからないけれど、楽しむためのチャンスを持てたのはとてもよかったなと思います」 そして、弟の手書きの文字を使った商品が完成しました。 奈美さんこの仕事を通じて、弟の集中力の短さについても初めて気づくことができました。1時間ももたず、30分やると嫌になって途中でやめてしまうのです。 それに対し「今まではわがままだと思っていたけれど、ダウン症の弟にとって文字を書くということは、手を動かしたりお手本を見たりしながらやるということで、とても大変なこと。私が見ている世界とは違うから疲れるんだろうなという共感を持つことができました。これは弟の作業を見ないと気づけないことだったなと思います。弟の仕事ぶりを見る姉は世の中にほとんどいないと思うけれど、弟の仕事ぶりを初めて見れて知らないところを知れました」