固体ロケット「イプシロン」が切り開く宇宙ビジネス 小型衛星を安価に打ち上げ
低コストな小型人工衛星の打ち上げ手段として期待
実は、日本の固体ロケット開発には、少しだけ空白の時期がありました。2003(平成15)年にはやぶさを打ち上げたM-Vロケット(イプシロンの前身)が2006年に運用を終了してからしばらくの間、開発がストップしてしまったのです。しかし、日本の固体ロケット技術を維持するために、イプシロンロケットの開発が2010年から本格的にスタートしました。イプシロンは、H2AやM-Vロケットの部品、機器、技術を活用して、短期間、低コストで開発されたのです。
そして、2013(平成25)年9月14日に、イプシロンロケットの1号機にあたる試験機が打ち上げられ、惑星分光観測衛星「ひさき」が無事に予定された軌道へ投入されました。その後、2016年12月20日に2号機、2018年1月18日に3号機が打ち上げられ、ジオスペース探査衛星「あらせ」、高性能小型レーダー衛星「ASNARO-2」がそれぞれ宇宙に送られています。 現在、宇宙開発は大きな転換点を迎えています。これまでは政府系の宇宙機関が中心となってロケットや人工衛星を開発してきましたが、最近は民間企業が積極的に参入するようになりました。従来、高性能で大型のものが開発される傾向が高かった人工衛星は、低価格で機能を絞った小型衛星がたくさんつくられるようになっています。そのため、小型衛星をリーズナブルな価格で打ち上げられる小型ロケットのニーズも高まっています。
イプシロンロケットは、そのような要望にも応えるために、ロケットの自動点検技術(人工知能を使って自律的に不具合などを検査)などを導入し、打ち上げ管制をシンプルなシステムすることに成功。これまで管制室に60名ほどの人員が必要でしたが、なんと6名で運用できるようになりました。ただ、打ち上げ費用は当初の目論見通りには下がっていません。M-Vロケットは1機の打ち上げ費用が75億~80億円だったので、イプシロンでは1機当たりの打ち上げ費用を約半分の38億円と見込んでいたのです。 しかし、2号機以降は打ち上げ能力を高めた強化型を開発したことも影響して、4号機の打ち上げ費用は55億円に上りました。今回の打ち上げ費用は、すべてJAXAが負担しました。今後は、現在開発中の新型液体ロケットのH3ロケットと部品、機器などの共用化を進めるシナジー対応を進めて、打ち上げ費用をさらに抑える計画を立てています。